富士川 支流 釜無川 支流 尾白川
神蛇滝



所在地
山梨県北杜市

地理院地図 (←クリックすると国土地理院のHPにて位置を確認できます)
評価(5段階) ★★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆
訪問日 2023年8月30日
今まで行ってなかったのが不思議なくらい。
この近辺にはよく来たけれど、何故か縁がなかった。

日帰りであまり疲れない所を探していたら、そういえばこの尾白川の下流域は行ってないじゃんと気付き、計画しました。

ちなみに、上流域は2018年に訪問済みです。こちらの方がアドベンチャーでした。

道の駅「はくしゅう」で待ち合わせはもう何度目なのか覚えていない。とにかくよく駐車し、よく仮眠しています。

6時、かっさーさんとフグさんと待ち合わせ。
そして尾白川神社へ。

下流域の不動滝までは観光地となっており、ちゃんとした登山道が設けられていますので、気楽なものです。


とりあえず神社に挨拶(御守り売ってなくて残念)して、渓谷道を進みます。

橋を渡ってしばらく進むと大きな淵が現れる。
その奥にあるのが仙ヶ淵です。


私事ですが(全部私事のHPだけど)、この訪問で新規の訪問滝数2000滝を達成しました。

感慨深いものがありまして、今までの印象深かった滝が思い出されました。
記録の為に活動してきた訳ではないのですが、やはり節目というのは嬉しいものですね。

そしてそして、野球では2000本安打を達成すると名球会に加入する権利を得られますので、私もこれで名滝会に入れるようになれると思うと物凄く感激です。
どなたか、私にブレザーを下さい(笑)。


さて気持ちを滝に戻して仙ヶ淵と向き合います。
一般的な観光地としての仙ヶ淵は小さな滝を設けた深い淵を指すのでしょうが、岩棚を進んでいくと滝に出会えます。

これが凄いのよ。ビックリな好印象。
魔境、摩天楼。
魅惑的な岩壁から落ちる水、270度が岩壁に囲まれた超閉鎖的空間の危うさと、赤味がかった独特な岩肌が印象的でたまらん景観。

一言、ここはヤバいですよ。

更に良い所は手前の淵までは観光客が沢山いますが、この奥まで来る人はほぼいないので、空間を独占できます。
気兼ねなく楽しめるのもグッドです。

フグさんの遊びっぷりには呆れるというか関心させられるというか、今までの滝巡りとは隔絶されていて想像を越えていきます。

右の岩壁を登れば仙ヶ淵の違った景色が見れて楽しそうだなってフグさんと話したのですが、簡単には登れない。

そこに行くには足がつかない清く深い滝壺に入って、ちょっと泳いで奥に行かないとならない。

まだ朝の7時、太陽が上ってきていない影の中である仙ヶ淵はヒンヤリしている。
水も同じくつめた〜い感じ。夏だけどやっぱり全身を冷水に突っ込むのは抵抗がある。
って悩んでたら、フグさんが間髪入れず足の着かぬ滝壺にザブンと入って進んでいった。さすがだわ〜。

ちなみに僕はと言うと、このタイミングでコンデジが壊れてしまい、テンション落ちたので(行っても撮影出来なきゃ面白くないから)手前で待機してました。

ここからのフグさんも奇想天外で、更に滝に近寄ってた。
そしてハプニングが待っていた。


フグさんは岩棚から滝壺へダイブした。飛び散る水飛沫が心地良さそうだ。
しかし、それとは裏腹にフグさんの表情は曇っている。

「アクションカメラを落としてしまった」
えっ?
「飛び込んだ時に」
なにそれこわい。


マジか、、、、。
飛び込んだのは滝壺の奥の方。間違いなく深い水の中に沈んでいる。

やれるだけやってみようじゃないか。
神蛇滝の滝壺で遊ぶ為にゴーグルとシュノーケルを持ってきていたので、装着する。

淵の手前から泳いで進んでみる。水はやっぱり冷たい。
水は透き通っており綺麗。滝壺の底は尾白川の特徴である花崗岩の白い砂が広がっている。
バタ足で進んでいく。

白い底に一つ。黒く四角い物体が見えた。多分あれかな? アクションカメラだろう。
黒い石が積まれた滝壺だったら見つからなかったはずなので、その点落としたのが尾白川で良かった。

前方3mほど、深さはおそらく2mは越えている。
よし、と狙いを定めて潜水を開始。

しかし、手を伸ばしてバタ足をするも黒い物体は大きくならない。
滝から落ちてくる水の流れに押し返されてしまう。
一呼吸入れて再アタック。視界に捕らえているものの絶望的に遠い。
自分の泳力の無さに悲しくなる(泳ぎは苦手)

フグさんも挑戦しているが、結果は一緒で近寄れも出来ない。

数分が経過し、二人とも全身が震え始めてしまった。
これはまずい。低体温症になってしまう危険な状態。これ以上はここに留まれない。

体が暖まって回復しても、この朝の気温と水温ではまた直ぐに震えてしまう。
焚火が出来れば暖を取れるけど、ここは皮肉にも観光地なので火気厳禁であろう。

今、この状態でここで粘っていても何も出来ない。
午後になってより気温が上がってから、ここに戻ってきてもう一度チャレンジしましょう。
回収が出来なくて申し訳無いけれど、やむを得ず仙ヶ淵を後にしました。


フグさんはカメラを落とし、私はカメラの故障。
お互いに失意の中で、登山道を進んでいく。

テンションは低いはずなのだが、尾白川のパワーが凄い。
美しき水の流れ・色・音、この空間自体が宝石かのような景色が広がっている。
これを見てると抑揚してしまう。
泣いたカラスがすぐ笑ったってくらい、気持ちを変化させられて、失意など忘れて渓谷美を楽しんでいた。


仙ヶ淵から20分ほどで三の滝に到着。
ここは登山道沿いにある滝なのだけど、特に案内はありませんでした。

インタビュアー「BALさん、2000滝を達成しました、次の目標は何でしょう?」
BAL「次の1滝です」
って脳内でイチローばりの回答をしてたその1滝にあっさり到着。
ここは小さい滝ながら、開放的で気持ちよかった。

そしてその次が旭滝。


その先には百合ヶ淵


ここは登山道からでは岩の隙間から見下ろすしかないのだけど、下流側に踏み跡があって近くまで普通に行けます。

大きな淵に5mくらいの滝。太陽が当たっていたら、さぞかし美しかろうと想像が容易い素敵な空間であった。

ただそれ以上に心を奪われてたのが、百合ヶ淵のすぐ下流にある水の広場だ。
花崗岩と砂で形成された絶妙な水の庭園。
滝では無いけれど、ここはかなりズキュンと来ましたね。


百合ヶ淵庭園と名付けよう

フラットな砂場と水場
鏡面のような輝き

そこに寝転ぶ
(フグさん撮影)

再び登山道に戻る。
ここから道は急勾配。ゼーハーゼーハ息切れをしながら登っていく。


登りきったその先に待っているのは神蛇滝です。


まだ嫁さんが滝巡りに付き合ってくれていた頃に、夫婦でハイキングがてらに訪れた懐かしい滝。
あの頃の嫁さんは頑張ってくれてたなぁー、今では滝に無関心だよ、、、。
ちょい感傷的になってしまった。

前回は一般的なこの遠望だけで終わらせてましたけど、今回は違います。滝壺に向かいますよ。
それが今日のメインイベントです。


滝壺へ下りるには道がある訳ではないですが、難しくはありません。
展望台から山ルートへ登山道をちょっと進んで、鞍部になったらそこから登山道を離れ斜面を下りていきます。
踏み跡は薄いながらも有ります。別にそれを探さなくても、とにかく斜面を下れば良いです。

ようやく、皆が絶賛している神蛇滝の滝前に到着です。

ここの蛇は、メドゥーサでした。
美しい過ぎて、見惚れ過ぎて、硬直。
目をハートにして石化されてしまったような感覚。


これは反則だ。チートだよ。
美しい滝ランキングがあるのなら、おそらくこちらは選考対象外だ。
なぜならベストジーニストを3度取って殿堂入りしたキムタクかのようなものだから。

整った岩肌、磨かれた岩壁、透き通る水が整列されて落ちてくる。
深く清い滝壺も怖いくらい綺麗。


神に遣われし蛇、これぞ日本の美の集結。
尾白川はどこも綺麗でどこでも感動するが、神蛇滝はそれを凌駕する。
「美しい」では足らない。上位互換の言葉が欲しい。心底そう思いました。

石化から解放されたので、滝の撮影に勤しむ。スローで撮るとやっぱり綺麗。
ていうか綺麗、めっちゃ綺麗、むっちゃ綺麗。
ものまね王座決定戦でいつも渋い点数をつけていた淡谷のり子さんだって、この滝には満点を出したであろうよ。


ちょっと残念な点は、寛げる場所の狭さかな。
尾白川は白い砂が堆積していて、時には平坦な砂場もあるのだけど、もしも滝前にそんな広場があればここは楽園になった事だろう。

夏日であるはずなのだけど、太陽が出ないのであまり気温が上がってこない。
浮き輪を膨らませて、滝壺でプカプカ浮きたかったのだけど、ちょいとそんな水遊びが出来るような暖かさではなかった。
天気にちょいと恵まれませんでしたね。


さてさて、上段の滝前を目指してみましょう。
右岸か左岸か、どちらも行けるような気がするけど、左岸をチョイス。
人気な滝なので、やっぱり踏み跡はあった。


滝前に出るには急斜面を下りる事になるので、5mくらいでもお助け紐があると安心です。
メインの中段の美しさを見てしまうと上段はおまけにもならない程ではあったけれど、落ち口に立てたのは気持ち良かった。


上段も左岸から高巻いて、尾白川渓谷登山道の最後の滝である不動滝を目指します。


右岸の斜面を上がれば登山道に合流出来ますが、そのまま沢登りをしようって事になり遡行開始。
別段難しい所もない優しい沢登りで美しい水を堪能しながら進んでいって、上空に登山道である吊り橋が見えた。


そこは二俣になっており、右俣に入ると登山道に出て、その奥に進むと不動滝とご対面。
一際大きな滝で、飛沫も豊富。岩壁を更に奥に進むとちょっと洞窟っぽい感じで撮影出来るのも良い感じ。


登山道のフィナーレに相応しい、豪快な直瀑でした。


ここからは観光地の登山道はUターン(上部にある林道に向かう登山道があるが一般的ではない)して、駐車場まで戻る事となる。

沢の脇を進む登山道ではなく、山間部を進む登山道を利用する。


緩やかに下っていく安全な道なので、事故の多い帰り道(下り)にはベストな案配。
この辺りも観光地としてのパフォーマンスが素晴らしいですね。

黙々と粛々と下っていき、尾白川を渡る橋が見えて来た。
って事は、その奥にある仙ヶ淵まで戻って来ました。


ここからだ。これこそが今日のメインイベントだ。
カメラを回収するまで帰れまテンが始まる。

登山道を下りてきて、割と息が弾み体に熱が籠もっている状態。
この熱が利用して短期決戦で決めたいものだ。

淵の前に立ち、ゴーグルをセットして滝壺の中を覗く。
ゲッ、朝よりも暗い。
時刻は15時。決して遅い時間ではないのだけど、東向きの尾白川渓谷は午後に影に入ってしまうのは分かっていた事。
かと言ってもちょっとこの暗さは予想外。
でも午前中に比べて水温・気温は幾分が上がっているように感じた。

手前から潜水を試みる。
ある程度進むと水圧に負けて押し返されてしまう。
それでもカメラは確かにある。
場所は把握した。 

2回潜った状態で、まだ体に震えはない。ただ体感的にあと3回くらい水に浸かったらギブアップになる気がする。

遠くから潜水をしていたのでは、埒があかないのは分かった。

じゃあどうするか。
カメラに近い岩棚から一気に飛び込んでみよう。

深く、水圧に揉まれたら溺れるかも知れないので、かっさーさんに浮き輪を託しすぐに出してもらえるようにお願いをした。

脇の枝沢の滝をモロに受けながら岩棚まで登ってきた。

ここはプールとは違う。
冷たいし、暗いし、水の中にはうねりもあるかも知れない。
想像が出来ないというのは、やはり怖い。

でもやったる。

勝負だ、楽しめ。

古い映画「ポセイドンアドベンチャー(船の沈没から脱出する話)」を見て習った事を思い出す。
思いっきり吐いて肺を空っぽにしてから、思いっきり空気を吸い込む。
それを2・3度やって肺を拡張させつつ、空気を大量に肺に溜め込む。

そして頭から飛び込む。


途端に冷たい水が体を突き刺す。

高い所からの飛び込みなので、一気に滝壺の底まで潜れた。想像通りだ。

さあ、カメラを見つけろ。

そう脳が目に指令を送った瞬間に、目の前に黒い四角い物体が見えた。

掴め!
右手を伸ばして、力強くそれを掴んだ。よし・・・よし!

離すな!
浮き上がれ!

右手を制止したまま、左手で水を掻いて底から離れていく。

空気のある世界に戻ると、かっさーさんが浮き輪を投げてくれて、それに掴まった。これで溺れる事はない。安堵感。

右手を上げる。
アクションカメラだ。

『おおっ!』
っと2人からの歓声が聞こえた。

自分も吠えた!
やってやった。めちゃくちゃ嬉しい!

フグさんにカメラを渡し、すぐに作動確認。
無事に動作が出来た様子。
半日も沈んでいたのに、素晴らしい防水性ですね。

フグさんは勿論、かっさーさんも笑顔。僕も当然ながら笑顔。

見つかって良かった。
失意のままに帰るのは、やはり後味は良くないからね。


でもね、僕が見つけたのはカメラではないんだ。
本当に見つけたかったのは、フグさんの笑顔だ。
どうやらそれは、拾えたようだね。



だぁーはっは!
カッケー事を言っちゃったわ! それくらい酔ってもいいっショ! 

てな感じの歌が、槇原敬之から出ています。是非聞いてみて下さいな↓



ちなみに、文ではこうやって書いてるけど、現場では「金の斧と銀の斧」の真似をしたのだが、うまく口が回らなくて失敗してしまった。

さ、帰りましょ♪
濡れてビョショビョシ。心はポッカポカ。まるで寒くない。

少し歩けば、駐車場に到着。
あとは温泉&メシのフルコンボ。

2000滝、尾白川渓谷の美しさ、神蛇滝の尊さ、そして皆の笑顔。
今日は本当にメモリアルな日になった。
その喜びは勿論、プライスレス。

滝との出会いはこれからも続く。
名滝会の名に恥じぬよう、精進します!


6:40 尾白川渓谷 駐車場 出発
7:00 仙ヶ淵
7:45 出発
8:05 三の滝(鼓滝)
8:25 出発
8:35 旭滝
8:55 出発
9:15 百合ヶ淵
10:00 出発
10:25 神蛇滝 滝下
12:00 出発
12:10 上段滝壺
12:35 出発
14:00 不動滝
14:30 出発
15:35 仙ヶ淵
16:00 出発
16:20 尾白川渓谷 駐車場 到着


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