王滝川 支流 濁川 支流 赤川
閻魔の滝



所在地
長野県王滝村

地理院地図 (←クリックすると国土地理院のHPにて位置を確認できます)
評価(5段階) ★★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆◆
訪問日 2023年6月25日
夢・・・睡眠中に持つ幻覚
夢・・・はかない、頼みがたいもの
夢・・・将来実現したい願い、理想
(※広辞苑)

夢、それは、ドラえもんが叶えてくれる事

そして私の元には、夢の請負人であるTakuえもんが来てくれました。

〜ドラえもんのうた〜
(前奏)テレレレレ テレレレレ
こんな事いいな 出来たらいいな
あんな夢こんな夢 いっぱいあるけど〜
みんなみんなみんな 叶えてくれる
不思議なポッケで 叶えてくれる〜

BAL「閻魔の滝に 行きたいな〜♪」
Takuえもん『はい 努力と根性〜』

アンアンアン とってもスパルタ♪
Takuえ〜もん♪


この滝をいつ知ったのか、はや15年は過ぎていると思う。
沢ヤさんのレポートではとても難しい事が記録されていた。
その記事の中にあった閻魔の滝の写真を見たときの衝撃は忘れられない。
この滝に会いたい。そう切実に思ったけれど、レベルが違い過ぎて挑む気になれなかった。
それでも、一時も忘れる事はなく、常に頭の片隅にはこの滝が存在していた。

そしてこの度、Takuさんのガイドの元、無事に閻魔の滝に出会えました。

Takuさんと出会えた事は幸運であり、それは今まで出会った滝の仲間に恵まれた結果です。
全てが繋がって、閻魔の滝に至った。
滝の仲間への感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございます。


この度、目指すキッカケとなるのはサナギ滝の再会時。
無事に下山して、食事しているときにこの閻魔の滝へのアタックを相談してみた。
するとTakuえもんは、大量のドラ焼きが出てきたかのように目を輝かせてくれた。

この滝は屈強の沢ヤさんしかレポートを上げていない。とても難しい沢だから。
閻魔の滝の下部ゴルジュを越えるのは、熟練の技が必要である。
とても自分のような技術を持たない人間には辿り着けない。

だけど、閻魔の滝にピンポイントで向かうのならどうだろう? そう検討してみた。

この滝を越えるのは直登は出来ず、右岸を巻いて落ち口に至っている。

という事は、この右岸高巻きのルートを見つければここから下りて滝前に出れるのかも知れない。

では、落ち口に行くにはどうすれば良いか。
古い地図を見ると赤川と西隣の白川との中間尾根に登山道の波線が描かれていた(現在の地形図には消されている)


昔はこの中間尾根から御嶽山に向かう登山道があった事を知った。この尾根から閻魔の滝の落ち口に行けるのなら、何とかなるかも知れない。

夢への実現がほんのちょっと見えた事をTakuえもんに伝えた所、すぐに単独で行動を始めた。

結果、一度目は地獄谷を遡行して敗退。
二度目は中間尾根を登り落ち口へ至り、そこから高巻き道を見つけて下降し滝前に立った。

この中間尾根の登りは廃道であり藪が酷く、そこを越えるだけで3〜4時間掛かったというのだから、相当しんどいものだったと想像は容易い。

Takuえもんはそれだけで終わるのではなく、我々を案内するためにより早いルート工作(ロープ設置)をして頂いていた。


さあ、当日。
道の駅「三岳」に集まったのはTakuえもんを筆頭に、えだ2さん、サモハンさん、あっきーさんと私の計5人。

Takuえもんの四次元ポケットから取り出した「えだ2さん」にお会いするのは初めてで、感激。

滝巡りする時はえだ2さんのブログを必ずチェック(マジで役立つので必ずチェックだ!)して、その上で計画を練ります。

えだ2さんの滝の紹介のお陰で、沢山の滝から感動を頂いているので、ずっと感謝しており、いつかは一緒に滝巡りしたいと願っていました。

そんな夢も叶えてくれるTakuえもん。人の縁、結びまでも実現してくれるなんてさすが未来のロボットです。

時間が惜しいので、挨拶をそこそこに現地に向かいます。
赤川へのアプローチは、東隣の伝上大滝と同様になります。
林道から北に折れると、ゲートが現れる。そこには5〜6台は駐車可能な余地がありました。
最初は長い林道となる。だから折り畳み自転車を用意しました。


緩やかな登り、アスファルトで歩きやすいけど自転車漕ぐにはしんどい。
今は漕がずに押して進む。自転車の活躍は帰りにありますので、今は我慢の押しになります。
後半は崩落池を通過。デコボコが激しい砂利道を自転車を押して進むのは面倒いものがありますが、ここも辛抱です。


ゲート出発から50分程でようやくデカい看板のある堰堤広場に到着。
こんな案内あっても、ゲートがあったら誰も目にしないだろうに、変な所に税金が投入されているなと疑問になります。


ここで自転車は終了。濁川の左岸にある堰堤用の仕事道を使って北上します。
とても長い道。藪は少なく歩くのは容易だけど、景色の変わらぬ歩みはダレますね。


沢山の堰堤を仕事道でやり過ごしていくと、徐々に正面に崖が見えてきます。
そして濁川は西の白川(本当に白い川)と東の赤川の合流点が出てきます。
中間尾根の取り付き点をよそ目に、赤川(ここからは右岸)に入っていきます。


そこで会えるF1。小さいながらも地獄谷の雰囲気そのものの荒れた滝です。
沢ヤさんは、この滝を左岸から巻く。
多分これかなってルートは見えたけど、とてもじゃないけど取り付く気にはなれません。僕一人だったら、ここで敗退です。


さあ、ここからはTakuえもんが編み出した巻き道に入ります。
王道ではなく、22世紀の力で生み出された新ルートです。
沢ヤとは違った滝ヤの目線で構築された閻魔の滝へのダイレクトアプローチになります。

そして、僕はこれから苦しみ悶えまくり、『これ3人用なんだ』とスネ夫に言われた時みたいに「Takuえも〜ん!!」って何度も泣きついたのでした。

左岸ではなく右岸を攻めます。
F1の手前。右岸のガレ場、転石と浮き石が著しい斜面を力一杯登って行きます。
目の前に広がるのは岩壁。
この上に行かねばなりません。


その弱点をTakuえもんは見つけていました。

がしかし、ここが僕にとっての関門。

残置していたロープを利用して、崖を登って行きます。
えだ2さんは軽快に突破。あっきーさんも続く。
次は僕の番とロープを掴む。ロープをガッシリ握ってゴボウで登っていくのだけど、まるで上がれない。足場がうまく取れない。


逆上がりが出来なくて、悔しがるのび太と同じ気分。
以前に、ロープを掴んでいたにも関わらず滑って落ちた記憶がトラウマとなっていて、力が出せないのです。怖くて固まってしまうのです。
もしも、このロープがまた滑ってしまったら、回転しながら落ちてどこまで転がるか分からない。
そう思うと動けない。

下で控えているサモハンさんが足場をアドバイスしてくれたり励ましてくれる。
まるで「お前のものは俺のもの。だから、お前の苦しみも俺のもの」と言ってくれているようで有り難かった。

ゴボウでの力勝負の登りは諦めた。皆と同じ事が出来ない悔しさ、劣等感は否めないけれど命を優先する。

スリングをフリクションノットでハーネスと固定して、滑落しないようセットした上でジリジリと上がってクリアした。
サモハンさんから歓喜の声を頂いた。とても暖かかった。

ここからの僕は、一度植え付けられた恐怖心に飲まれながらの行動となる。

もう一段、崖を登るのだけど、そこもまた大変で、皆はスルッと登っているのに僕だけが時間掛けてしまって申し訳ない気持ちで押し潰されそうだった。
でも、誰も非難する事なく、むしろ映画版のジャイアンのように大きくて優しい存在でいてくれたのに感謝です。


二段の崖を終えると閻魔の滝に向けた北上のトラバースとなる。
岩壁沿いは藪が少なく進みやすい。
が、斜度がヤバい。高度感のある歩み。
躓いてバランスを崩してしまったら最後、赤川のゴルジュに吸い込まれる。絶対に助からない高さでの移動。



怖くて立ち止まってしまいそうになると、廊下に立っとれの先生の言葉を思い出す。
「目が前向きについているのは何故だと思う。前へ前へ進む為だ」
これだけ大人気アニメなのに、あなたの名前がないのは何故ですか? と不思議に思いつつも、奮い立つ勇気を貰った。

一切気を緩められない。一歩一歩が全力。
Takuえもんとえだ2さんが足場を作ってくれるので、そこを踏めばよほど滑落しないのだけど、人が踏んだ故に脆くなる箇所もあるので慎重さは捨てられない。

緊張感からくる精神的な負担がヤバい。とにかく耐える時間帯だ。

トラバースを続けていくと今までは高く遠すぎた地獄谷の水の音が聞こえてきた。
閻魔の滝が近い証拠だ。

Takuえもんが「ここだ」と呟いた。
緊張のトラバースは終えて、閻魔の滝への高巻き道の降下が始まる。

これがまた急斜面で、さっきまでのトラバースが優しく感じられるくらい危うい。
単独ならば諦めている所。でもTakuえもんが軽快に下りていくので、それに倣って下りていく。生きた心地はしない。
3m程だけど、懸垂下降をする。

視界が晴れて、対岸が見える。
とんでもない絶壁が正面に鎮座している。なんという光景だ。
もう滝は近い。

最後の下降。
見晴らしのよい絶壁での移動。
足元は滑りやすい草付き、もしくは岩肌。
安定とは対局にいる。


怖さで硬直する。何度か泣き言を吐いた。でも踏ん張った。
「僕だけの力で 君に勝たないと
Takuえもんが安心して 帰れないんだ!」
その一心だった。

所々に生えている藪木を掴んで命を確保。
掴むものがない場所もある。足のバランスだけで移動する。フラついたら命が終わる。

緊張の糸、よくぞ耐えてくれた。
いや違う。多分、糸は切れた。切れて恐怖心から解放されたから、動けたのだと思う。

草付きの先、掴むものがない露岩の下降を終えると閻魔の滝が目の前にあった。

夢の世界に、踏み込んだ。


「見たろ、Takuえもん。かったんだよ。ぼくひとりで(1人じゃない)。もう安心して帰れるだろ、Takuえもん」

全ての繋がりに感謝。走馬灯のように滝の仲間や思い出が蘇った。

夢を叶えてくれて有り難うございます。
そうTakuえもんと握手した。
その手は白く丸い手ではなく、人間と同じだった。

閻魔の滝と相対する。


落差は30m程と決して大きくはない。
しかし、それを凌駕する力がここにはある。

絶望的に聳える側壁は長い滝人生の中でも初めて見る強烈な存在として立ちはだかっている。
草木、生命を感じるものが一切ないこの地では人間は生活できないであろう。
滝の水は生命の源ではあるがこの赤川は違う。口に含むと酸っぱい。活火山の源泉から流れてくる水は酸性水であり飲めたものではない。だから、魚はまったく居らず、崖と水は死を連想させるだけである。
地獄。ここにいるだけで命を削られる。その刹那に存在している事を尊く感じる。

夢にまで見た憧れの空間は、期待に違わぬ絶景であり、感動の息を越えて呆然としてしまう。
まさに夢見心地の境地。


そんな地獄の黙示録な景色の中で、躍動感を持った滝の姿。
輝かんばかりだ。
意外だったのは、アプローチも見える景観も全てが地獄を連想される状況だったのに、滝前だけは平坦で優しく癒やしそのものである事。
これが本当に嬉しかった。

滝に簡単に近づける、というか滝の中に入れるし。
飛沫は優しく仄かに舞っていて、離れれば濡れる事がないので寒くならず長時間滞在が可能。
殺伐とした世界に、滝が潤いを持たしている。
閻魔様って見た目は怖いけど、実はこちらの気持ちを理解してくれる優しい方なのかも知れないと考えを改めた。


2時間の滞在を終えて、別れの時が訪れる。
地獄の下りトラバースルートは、帰りは登りになるので精神的には楽にはなった。

かと言って緊張しない訳はなく、おっかなびっくりの状態で慎重に登り上がった。

落ち口にはスムーズに出られる。
垂直落下している落水と、その先にある絶壁を俯瞰する。凄い所にいたもんだ。
そして、そのアプローチを単独で(しかも二度も)探して挑んだTakuえもんに改めて感謝する。



我々が落ち口で遊んでいるとTakuえもんがリュックの四次元ポケットから秘密道具を取り出した。
Takuえもん「ドローン!」
ってな訳で、上流をドローンで偵察。

赤川の、閻魔の滝の上流には馬頭の滝と支流から落ちる勢至の滝がある(更にその上流には先達の滝がある)。
その滝の姿をドローンで確認をしていた。

ドローンが二つの滝を捉えた。さて、その上流の二滝まで現在地からどれくらい離れているのか? なんと600m程だけとの事。近いやん!

時間は2時過ぎ。下山も長いのだから安全を期すのなら今の時間から帰るのが当然である。

しかし直接距離600mなら話が違う。ここから先は、滝は出てくるものの、厳しい点は記載されていない。
スムーズに行けば、30分位で到着するのではないか。
最悪、この地獄の高巻き道を明るい内にクリアすれば、あとは堰堤の仕事道と林道は暗くてもヘッドライトがあれば何とかなるはず。

600mってどれくらいで着くと思うか、Takuえもんに尋ねてみる。

Takuえもん「ウサイン・ボルトが100mを10秒以内で行けるんだから、60秒で着くんちゃいまっか?」
確かになー、60秒かー、っておい! 誰と比較してんねん!

皆の腰はあまり上がらなかったけれど、のび太君ばりに「行きたい行きたい行きたい!」とダダを捏ねた(足を引っ張った張本人なのに、この辺ものび太らしいかな)

仕方ないなー、のび太君は。
みんなそんな風に諦めた感じで立ち上がってくれた。

スピードが勝負なので、とにかく身軽に。
リュックは落ち口にデポして、カメラだけを背負って出発。
Takuえもんに至ってはポケモンのキャラクター「カビゴン」のミニリュックを取り出して、それをアタックザックにしていた。さすが色んな秘密道具を出してきます。

落ち口上は視界の晴れ渡る見事な景観。この上には、枝沢から新鮮な水が取れてテン泊も出来るようだ。


5m級の小滝が現れる。脇を普通に登る。
7m級の滝は緩やかになっている右壁を登る。
Takuえもんは急斜面な左壁をサラッと登ってた。吸盤ついてるのか疑問に思った。そう言えばドラえもんの手は何でも吸いつく「ペタリハンド」という構造をしていたから、それが装備されているのかも知れない。

正面に大きめな滝が見えた。優雅な分岐瀑。これが勢至の滝だ。
馬頭の滝は直角に折れ曲がった先にあるので、ここからは見えない。

前衛の3×3mの段瀑。
ここが僕にとって新たな苦行だった。


僕が愛用している沢靴はフェルトソールなのだが、この閻魔の滝の上流はフェルトではものすごく滑ってしまうのだ。
逆にラバーはバチクソに利いているようで、安定感のある動きをしている。
この段瀑にみんなと同じように登ろうと足を乗せた所、ヌルッと滑り落ちてしまった。

最後はブリッジで越えるのだけど、落ちてしまう。ここも困った。
でも目の前に滝があるのに、諦めたくはないと気合いを入れて踏ん張った。

力を込めたその瞬間に右足の太ももが攣った。
パンダの「笹食ってる場合じゃねぇ」と同じ気持ちで、「攣ってる場合じゃねえ!」と痛みを無視して更に力込めてブリッジで移動して、何とか滝に到達出来た。


目的は達してホッとした。来れた事に満足で滝を楽しむ余裕はなかったけど。


この帰り(閻魔の滝の落ち口まで)はまた僕にとっては地獄で、全然グリップの効かない岩肌に苦労しまくった。
皆がサラッと下っている所に、気軽に足を乗せると滑ってしまうので一人だけ歩みは遅くなる。
ここでもまた足を引っ張る始末。「のび太君は本当にグズだなぁ」って言われてるようで辛い。

またもTakuえもんのロープに助けられて落ち口に戻ってきた。

後は来た道を戻るだけ。
と気軽に言うが、そこは地獄谷。
慎重さを忘れずにトラバースを行った。

堰堤群に出てからの下りはまぁ長い事。なんぼ歩いても着かない。
朝の時は下ネタで盛り上がってたから時間忘れてたけどね。

自転車に戻ってきたら、こっちのものだ。
最後は爆走で快適にゲートに着きました。


思い返せば、素晴らしき滝との出会いに感動一杯だけど、至らぬ点が非常に目立った。
けれどもそう落ち込んでばかりではいられない。

「君はこの先 何度も転ぶ でもその度に立ち上がる強さも 君は持っているんだよ(by 45年後ののび太)」
「一番駄目なのは、自分なんか駄目なんだと思い込む事だよ(by ドラえもん)」

この名言を胸にこれからも精進していこう。


※語るべき事はまだあるのだか、うまく文章に入れ込めなかったので、箇条書きで記載させて頂きます。
・スリングやカナビナを拾って頂き、ありがとうございます。そもそもなんでカナビナが落ちたのか原因不明。極度の緊張でどんな行動したか記憶にないのが理由かも知れない。
・勢至と馬頭の滝に行った結果、帰路が遅くなってしまい、皆さんで打ち上げ(風呂とか晩ご飯)が出来なくて残念でした。
・足引っ張ったのにも関わらず、心配してくれたり待っててくれて有り難うございます。
・サモハンさん、往きも帰りも終始運転して頂きありがとうございました。


6:00 林道ゲート前 出発
6:50 赤川を渡った先の広場
9:00 赤川F1
11:30 閻魔の滝
13:30 出発
14:00 閻魔の滝 落ち口
15:10 勢至の滝・馬頭の滝
15:30 出発
16:20 閻魔の滝 落ち口
18:55 広場
19:30 林道ゲート前 到着


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