飛沫の暴君
打ちのめされる。
ボクシングであればコーナーに追いつめられて、レフリーが制止するにも関わらず、ボコボコにされる感じ。
無言でめった打ち。慈悲なんて存在しない暴君。
飛沫を間近で感じようと滝壺の渕に立つときは、滝が生む暴風雨に襲われるのを覚悟して気合いを入れて近付きます。
そうやって暴風雨に負けぬように立ったにも関わらず、その飛沫の強さによろめき後退させられてしまいました。
気分的には↓この表情になりましたよ。
さて、
前日の湯川大滝の疲労が堪え、万全な状態ではなくなってしまった。
とても丸一日行動出来る体力はないので、半日で楽しめる滝を検討。
乗鞍付近のマニアックな滝巡りも楽しそうだったけど、こちらの天生三滝に決定。
ここは何年か前に目指して、その時は国道360号の通行止めで断念したままでした。
行くと決めたら、道路状況を確認。
今回も国道360号は通行止めですって。
劇団オンディーヌなみにいやがらせしやがる。
ザッケンナよマジで。
もう他の滝を検討してる時間もないので、国道を歩く覚悟で向かってみました。
前回と同じくゲートが閉まっています。この国道は冬季閉鎖にもなるので常に閉める気満々の体制を取っているのが憎い。
というか県道やら林道の通行止めなら仕方ないと思うけど、国道がガッツリ通行止めって酷くね?
それに、工事してる箇所は滝よりもずっと奥のようだから、滝まで行かせてくれよと舌打ちした。
まず最初の滝である天生木滝まで3kmほど。とっても綺麗なアスファルトの道を進みます。
工事会社の人に止められて追い出されたら、その時点で沢に下りて遡行しようと思ってましたが誰にも会いませんでした。
木滝は観光地。道路から見えるくらい近いです。
でも看板とかないので、油断してると通り過ぎちゃうでしょうからご注意。
そしてここから国道は九十九折りになって無駄に距離を歩かされるので、一直線で中滝に向かえる遡行に切り替えました。
木滝は右壁を登ります。虎ロープがありました。無くても何とかなります。
魚影が濃いです。ちょっとした渕では魚がバンバン動いています。
柱状摂理の発達した小滝がカッコいい。
ここも右壁を登りましたが、かなりドキドキしました。ちなみにちょっと戻った左岸に虎ロープがあって高巻きも可能です。
岩壁登りで緊張し、疲れてないけど心臓はドキドキしまくり。
上部に橋が見えて、国道の下を潜ると中滝に到着。
本来なら車から下りて一分で到着する中滝。
通行止めゲートから歩かされて、遡行して90分で到着。
苦労してここまで来た分、感動は一塩。努力や苦労は素敵なスパイスです。これが無ければちょっと物足りない。
多分、国道からすぐにこの滝が見れたのなら感動の度合いは下がったろうなぁ。
中滝も飛沫モウモウ。30〜40m離れていてもチリチリと飛沫が肌に当たる。遡行して熱くなった体が冷やされました。
メインは高滝ですから、中滝との戯れはほどほどにして高巻きを始めます。
中滝の右岸を見ると、細い枝沢があります。ここを登っていき越えていきます。
水の中を登っていき、右手に小滝が現れます。これは登れないので枝沢を更に登っていきます。
まずはこの小滝の落ち口に立つのが目標になります。、小滝と同じ高さ分登ったら枝沢の段が出てくるので、ここから枝沢を離れます。
行きやすい所を右へ。小滝の落ち口を目指してトラバース。この辺りは藪が多く踏み跡が薄いです。なので自分なりに移動しやすい斜面を選びましょう。
上記の枝沢の段の手前からトラバース開始がコンパクトですが、段の上からの方が楽ではあります。
無事に落ち口が見えたら、今度は天生中滝の落ち口を目指すべく更にトラバースを続けていきます。
小滝落ち口の先は踏み跡もわりと明瞭であり、所々にピンクテープが巻かれていたのでそれを頼りに安心して進めるでしょう。
で、無事に中滝の落ち口より上流で木滝谷に戻ってきました。
あとは難しい所はありません。沢床は滑りやすいのでその点に注意しながら軽快に歩いていくと高滝が現れました。中滝を巻き始めてから約1時間で到着です。
見事な巨瀑! 横幅どっしり、水量ずっどん、流れが美しく見えますが、そうではありません。暴れん坊将軍です。
真下には向かうには二つのアプローチ方法が。
真夏だったら濡れ濡れ小滝突撃コース。小滝を浴びながら腰まで浸りながら突撃しちゃいましょう。
それ以外の季節ならあまり濡れたくないでしょうから、左岸から藪漕ぎで小滝を越えられます。わりと泥斜面だし藪は背丈を越えているので面倒な巻きではあります。
さあ、暴君の真下に来ました。
真正面ではなくてちょっと脇が心地よい。岩場が段になっていて良い感じに座れます。
サウナの後、外気で火照りを取っていく感じ。見上げつつ穏やかな飛沫に包まれていると体が整っていきます。
次いで気持ちも整っていくと、なぞかけがしたくなる。
整いました〜。
天生高滝とかけまして〜(かけまして〜)
手品のタネが見つかっちゃったと解く〜(と解く〜)
その心は〜〜〜〜〜〜
どちらも「暴れて(あ、バレて)いるでしょう〜〜〜」
BALっちです!
ふっ、整い過ぎましたね。
ではでは、真正面に立ちましょうかとより近づいていく。歩く度に飛沫量が比例して増えていき。前が見えない、息が落ち着かない、あげくに暴風でふらつかされた。
やりすぎだよやりすぎ(笑) 泥団子を食べる北島マヤくらいぶっ飛んでる。
こんな所、一分も居られないよ。
この滝を受け止める度量は僕にはない。暴君過ぎて、すぐに寒くなって一旦退いた。
手前に戻ったら、お昼ご飯しつつ青空を願う。
暑い夏だから、ジッとしていると飛沫の寒さも落ち着いてくる。夏で良かった。
で、青空到来! 暑さもマックス!
もう一度、滝前に突撃し再び暴君のラッシュを受ける。30秒も立ってられず「やっぱ無理〜」とこちらがダウン。攻撃の手が全く緩まないなんてズルいぜ。
「二人の王女」のオーデションで北島マヤにボコボコにされた脇役女優の気分だ。でも爽快だけどね。
2時間、満腹を越えた充足感。むしろ食傷気味になるくらい滞在して退散。
帰りも同様の巻き道で中滝の下へ戻る。
練習を兼ねて枝沢の小滝の中を懸垂下降。濡れながら下っていくのは中々冷静になれないな。ひとつ勉強になりました。
そしてその後よ。巻き道はどこが最適かを探しに(あとスリングの回収に)枝沢をちょっと登ってキョロキョロしてたんす。
そしたら左耳が何かの音を聞き取ってそっち向いたんよ。
ギョッとしたよ。
大きい生物がそこにいたの。
その距離、2m。
目が合った。
終わったと思った。
めっちゃ叫んだ。叫びたかった訳じゃなく、勝手に吠えてた。
その獣は黒くなかった。茶色か灰色か、記憶にない。とにかく、カモシカだった。
見つめ合って、カモシカから先に目を逸らして、普通に枝沢を下って行った。
熊じゃなかった、熊じゃなかった。って放心しました。
小石がバラバラと落ちてきたので、枝沢の斜面を駆け下りてきたのだろうか。
おっさんにもなって叫ぶなんて恥ずかしいと思いつつ、これだけ叫べれば熊もドン引きしてくれるかも知れないと思いつつ。
生きてて問題なかった事にめっちゃ安堵した。
ハプニングはこれで終了。あとはロープを片付けて中滝からすぐに国道360号へ乗る。
簡単に脱出出来るのも良い感じ。コスパ良い名瀑ですね。
10:10 国道360号 通行止めゲート 歩き始め
10:50 天生木滝
11:45 天生中滝
12:05 出発
13:00 天生高滝
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