馬尾滝

Data 住所 福島県南会津郡只見町
評価(5段階) ★★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆◆
現地へ 只見駅の北東部。
只見駅から国道252号で会津若松方面に進み、「河合継之助記念館」の案内がある付近の川が、塩沢川。その川を越えた所に小さい踏切があり、そこを曲がる。あとは川沿いの道を駐車スペースまで進む。
コメント 私にとってこの滝ほど思い入れが強い滝はありません。
TVチャンピオンに参加し、優勝した森本さんと一緒に滝に行こうと話が決まり、そこでこの馬尾滝を目指そうとなった。

2007年7月29日。それが最初のアタックの日。
徒歩2時間と書かれており、危険なところにはロープが張られ、しっかりとした登山道がある。そう判断していました。
当日は雨。中止か悩みましたが色々打ち合わせして決まった日付なので決行。
塩沢川沿いの道を終点まで行こうとすると、道がないと思える程の聳え立つ藪。それを車で掻き分けながら進む。伸びきった草木が車の窓ガラスに当たり、それを払い除ける。段差もきつく、全く整備されていない道に驚く。ここはほとんど車が訪れないのだと理解しました。
ようやく駐車スペースに到着。4〜5台は置けるスペースですが、相変わらず藪でボウボウ。
雨の降る中、カッパを着て出発。大きなアブが周回しているし、クモの巣に張り付かれるわで面倒な歩き。
道は細いながらしっかりしているので迷う心配はないですが、最初に現れる「湧の滝」目前で視界は笹で埋め尽くされ道が分からなくなります。落ち着いて真っ直ぐに掻き分けて進むと、塩沢川に降り立ち、そこに「湧の滝」が現れます。
ここからが難関の始まり。
「湧の滝」の左岸の崖にロープが張られているので、ロープを利用して崖を越えます。この辺りは急な登りなので疲れます。
再度、塩沢川に戻ると、忽然と道は消えます。本来なら登山道があるはずなのですが、簡単には見当たらない。
左岸に微かな踏み跡を見つけ、そこを進む。合っているのか間違っているのか判断つきかねますが上流に向かっている事は間違いないのでそのまま進みます。
途中でロープを発見し、右岸を進む。間違っていなかった事に安心して踏み跡なのか獣道なのか分からない道を歩いていきます。
何度か渡渉しますし、時には川沿いの岩場を歩きました。
やがて両岸共に崖という狭まった川沿いを進むようになります。
ここでまた道を見失います。川沿いは歩けないので山側に登っていく道があるはずなのですが、どうにも見つからない。
仕方なく川沿いを進む。登山道ではないと分かっての前進。先に道が現れると信じての行動。
しかし、ロープなどは一向に発見できず川は狭まる一方。両岸はツルツルの崖。ビルの狭間にいるような圧迫感を感じます。
やがて川は深い釜を形成して、私達の装備では行けなくなりました。
どこかに道はあるはずだと辺りをくまなく探しますが、疑わしい道すらも見当たらない。
ここでシトシトだった雨が豪雨に変わり、大粒の雨がカッパを叩き始めます。
かなり危険な状態です。深い谷の川床にいる。鉄砲水の恐れを感じました。
見る見るうちに水かさは増えていき、水は岩を飛び跳ねるように流れていきます。気付くと左右の崖からは無数の滝が掛かっていました。右を見れば滝、左を見ても滝。時間が過ぎれば過ぎるほどに白く太くなっていく左右の滝。その真下に私達がいる。
道を探している場合ではなくなりました。一旦、川沿いから非難できる所まで撤収です。
川を下っていきながら何度も上流を振り返りました。背後から鉄砲水が襲ってくるのではないかと言う恐怖。
そんな時、登山道を発見。30cmくらいロープが見えました。それを引っ張ってみると、土の中から這い出てきました。まったく使われていないロープは土の中に埋もれていたのです。
そのロープは傾斜のきついルンゼを上がっていくようになっていました。
これ幸いとロープにしがみ付き、川床から脱出。鉄砲水の恐怖からは抜けられました。
川床から30〜40m上がった所から上流に向けて歩き始めます。しかし、全く道が見当たらない。踏み跡が完全に消失している。
とにかくその高低差を変えないように進みますが、今度は高度感という恐怖が現れます。道とは思えない所を進み、滑ったら川床まで一気に落下してしまう。
慎重に進みました。足元を踏み固めながら一歩一歩。時には木の枝にしがみ付きながら。3〜400m進んだ辺りで、木々の全く生えていない巨大なスラブが出現し、進むことが出来なくなりました。一旦川床に立ち、渡渉しなければ進めない。そう判断し下降点を探しますが、下は当然ながら崖。下りられるようには思えない。ではそのスラブも高巻くのかとさらに登ってみるものの、それも登れない。
大いに悩みました。ここで1時間以上は探しました。しかし、見つからない。仕方なく戻りつつ下降点を探していると、結局最初のロープまで戻ってきてしまいました。
雨はまたシトシトに変化して、川は比較的穏やかになっています。
今ならば川沿いを進めると判断し、先程の釜のところから登山道を探そうと、岩を飛び越えたりして川沿いを進みました。
深い釜に戻り、左右を見渡します。左を見ると先程の巨大なスラブが見えます。では右側。ルンゼが見える。そのルンゼを登ってみるも、道はやっぱり見つからない。
登ったり、戻ったり、何度も何度も探しました。ここでもまた1時間位でしょうか。雨の降る中、それだけで体力を奪われながら気力で探しました。
そうやくみつけたロープは、巨大なルンゼの枝ルンゼ。これも土の中に潜り込んでいて引っ張ると出てきました。
そのロープの先にはまたも道はない。下は崖。馬尾滝はまだまだ遠い。
時計は13時を指していました。早朝6時頃から歩き始め、既に7時間。雨に打たれ汗を流し、木を掴み腕力を使い、体力は半分も残っていない。これから進んで滝が見れたとしてもおそらく日没までに戻って来れないだろう。この危険な状態で、これ以上は進む気力がありませんでした。
やむなくリタイヤです。猛烈な悔しさの中、引き返しました。

2008年6月2日
やっとリベンジの日が訪れました。
今度は藪が高くならないうちに向かおうと予定していたからです。初夏、雪も消えて水量の多い時期、それにまだ草木の成長はもうちょい先。歩くのにはちょうど良いと思いました。
今回は沢靴を装備。登山道など関係なく本流一直線に突き進む予定です。
国道252号から踏み切りを越えて、林道を進みます。予定通り藪は低く軽快に走行できます。
これなら道も掻き分けずに済みそうだと一安心。
さて出発。湧の滝までは視界に変化のない山の中。黙々と淡々と歩きます。そろそろ滝かなと正面を見ると、前回は藪が高くて見えなかった湧の滝が登山道から見えました。藪が低いのはそれだけ視野が広がるので歩き易いです。この時期を選んで間違いなかったとテンションが上がります。
左岸から湧の滝を高巻き、塩沢川に戻り、ここからが沢靴の本領発揮。川の中に足を置いて水線ままに突き進みます。前回苦労した道を見つける作業はなし。時間も掛からず気疲れもせず気楽な道中。
特に難所と思える場所もなく岩をよじ登ったりして越えていくとチラホラと雪渓が姿を現します。肩もちの雪渓なので「硬い硬い」なんて触って楽しんでいました。
しかし、完全に沢を埋めている雪渓が目の前に出現し呆然。丁度、平屋の建物といった大きさです。
助かったのはそこが丁度登山道の入り口であった事。一旦山道に入り戻るとその雪渓は越えていました。
雪渓が残っているのはここだけなら良いけれど…。そんな不安に駆られながらも遡行を続けます。
前回、苦労して発見したロープがある地点まで来ました。今回は簡単に見つけられました。ただ上に登る気はないのでそれを横目に川を進みます。
川が左に折れている所を過ぎると、視界は一気に変化しました。川が見えない。
変わりに見えるのは雪の塊。10m位の高さでしょうか。巨大すぎて唖然。それが壁となって先を塞ぎ、冷気を放出しています。
冬山に行かない私にとっては雪渓の何たるかも知らない。とにかく上に乗るのも危険、下を潜るのも危険。近づくなと認識しています。
仕方なくロープを使い山に逃げます。やはりこの道は不明瞭。いくら藪が低く歩きやすいといっても道は見当たらない。もう道は完全に消失して、自然に返ってしまったのでしょう。
山道を適当に進みます。とにかく歩けるような所を探して進むのみです。川を見下ろすと先程の雪渓が果てしなく川を埋めているのが分かります。
前回発見できなかった川に戻るロープが見つかりました。これは藪が低いからこそ見つけられた結果。しかし、その真下にはやはり雪渓が待っていました。
現在は右岸の山道。ここからは左岸に渡渉し進む。その左岸のロープを発見したところが前回のラスト。
川を渡って左岸に移らなければなりません。つまり雪渓の上を歩かなければならない。落とし穴のように雪が崩れ、落下する可能性もあります。もしも落下したら生還は厳しいと恐怖心が沸いてきます。
その覚悟の上で雪渓に乗る。声を出すのも怖い。
一歩一歩確かめながら枝ルンゼに向かう。緊張感・集中、気力がドンドン減っていく。
枝ルンゼの足を踏み入れ、雪渓から離脱。一安心。しかし帰りも通らなければならない事に不安。
さてここからは未知の領域。予想をしていましたが、やはり確固とした道は見当たりません。
道は無い。それでも進むしかない。傾斜はきつい。時には足が滑り枝にしがみ付いて落下を防ぐ。両足が地から離れる瞬間は何度味わっても慣れないものです。
順調に進んでいるのか全く分かりませんが、滝に向かっている事は確か。進める隙間、登れる傾斜を探しながら進む。歩みは至極遅かったです。
やがて左岸に深い枝沢が現れ、それがまた雪渓に埋まっており、その枝沢を越える道が見つからず気力が失せました。
日没を考えるとここで引き返さないと危ない時間帯であった事。馬尾滝に出会うにはまだまだ距離が残っていた事。限界でした。
こうして2回目のアタックも失敗に終わりました。

2008年7月27日
これで3度目のアタック。ふと見れば一年前のアタックの日とほぼ一緒。つまり藪の襲撃を掻き分けなければならない事を意味します。
もう馬尾滝を目指すのにナビはいりません。いつもの通り只見駅で待ち合わせをし、出発。
林道はやはり藪がひどい。車で掻き分けて道を拓くのは気が滅入ります。車に傷つかないか心配にもなるけれど、進むしかないのでとにかく進む。
見慣れた駐車スペースに辿り着くと、覚悟していたアブがあまりいない。その方が嬉しいけれど今日はどうした事か?
今回も最初から沢靴。勿論突っ込む予定。あれから約2ヶ月過ぎたのだから雪渓はさすがにないだろうと願いつつ歩き始めます。
湧の滝手前の藪が高い。2ヶ月前は腰辺りしかなかったのに、随分伸びたものです。自分の身長よりも高く壁となって塞いでいる。腕の力で払いのけて湧の滝へ到着。この滝を見るのは3回目。決して見たくて見てるわけではないので嬉しさは既にありません。ただの休憩ポイントです。
さて川の遡行開始。以前出会った雪渓はなくなっています。今回はいけそう。足取りは軽やか。
前回猛烈に立ち塞がった雪渓の地点まで来ると、物凄い冷気と霧を発生させていました。まさか、雪渓が? 嫌な予感をしつつカーブを曲がり正体を見るとやはり雪渓。しかし、以前とは比べ物にならないほど小さい。しかも道を塞いでいるわけではないのでそのままやり過ごします。
登山道から辿ると右岸から左岸へ移る地点。ロープが下がっているのが分かります。前回はこのルンゼを登っていったのかと遠い過去のようにルンゼを見つめながら川を歩く。
未開の地に突入。
ここから先は川幅はグッと狭くなります。滑滝があったり、釜を持っている滝が現れたり、沢靴であれば問題なく進めます。
やがて5mくらいの直瀑が現れ、ここは直登無理なので左岸で高巻きます。と言っても親切に虎ロープが残置されているので強度を確かめ後、有難く利用させてもらいました。
ここからが難所。小滝と釜の連続。太もも辺りまで釜に浸かりながら移動し、小滝を浴びながらよじ登る。それの連続。
一番深いところでは胸辺りまで来たでしょうか。ザックを頭の上に乗せて見えない足元を探りながら進む。大事なカメラが入っているのでザックを水に浸ける訳にはいかない。といってもカメラだけは更にビニールに包んでいるから問題ないと思いますが。
身長177cmの私で胸辺りまで。それより低い人であればもっと浸かりますのでご注意を。
高巻いたのは5m滝のみ。それ以外は全て直登してきました。体は全身水浸し、唯一濡れていないのはザックだけです。
ようやく目の前に馬尾滝が現れました。一年越しの出会い。やっと出会えた。それは想像よりも壮大で優しく、周りの景観含め絶景でした。
時計を見ると、出発からちょうど2時間が経過したところ。タイムアップが二度。あれだけ苦労したのに2時間で到達とは拍子抜けと言ったところですが目の前の滝を見ればそんな感情は忘れて滝へまっしぐら。
高さは十分。滝水は岩盤に打たれ小さな水玉となって降り注ぎ、穏やかに飛散する。
右からも左からも正面からも見える。しかもどれも違った姿を見せてくれて色んな所に移動しては夢中でシャッターを切りました。
右岸に急で細いがルンゼがあります。それを辿り滝の岩盤沿いに進むと中腹に出られます。
更にそのルンゼを登り、右に尾根が見えた辺りから木々を利用して登ると、落ち口にも出られます。しかしそのルンゼは本当に急なのでお勧めしません。
予想よりも早く着いた事もあり、存分に堪能できました。この滝だけで3時間30分ほど滞在しました。これだけ長く滝を見続けるのは初めて。それでもまだ飽き足らぬ。もっともっと居たい、そう思える素晴らしい滝です。

2回目で一緒にアタックした「えーちゃん」「あっきーさん」(リンク参照)、ご案内しながらも到達できず本当に申し訳ありませんでした。

3回目で一緒にアタックした「三重の汚点さん」「ちさとさん(リンク参照)」、協力しながら笑いながら、時にはアドバイスを頂きありがとうございました。馬尾滝でのハイタッチは一生忘れない暖かさがありました。

1・2・3回共ご一緒した森本さん。滝通選手権に出場したことよりも、森本さんに出会えた事が一番の喜びです。艱難辛苦、それを乗り越え無事に出会えた滝。森本さんが居なければ到達出来なかったと思います。これからもご指導お願いします。
他写真
訪問日 2008/7/27

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