百四丈の滝



Data 住所 石川県白山市
評価(5段階) ★★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆◆
現地へ 白山の北西部。
県道53号で新岩間温泉へ向かう。百四丈の滝が掛かる丸石谷へ向かう林道を進み、あとは遡行。片道6〜7時間。
コメント 今までの中で、最長であり最も危険な滝でした。一体何度「死んでしまう」と思った事やら、何度後悔した事やら。
ただ確かに、それに見合う素晴らしい、素晴らしすぎる、筆舌には尽くせない感動の滝がありました。

テレビチャンピオン「滝通選手権」のチャンピオンの森本さんと一緒に滝に行くのは3回目。そのチャンピオンが今までずっと憧れて思いを募らせている滝が、百四丈の滝でした。私は便乗した感じです。

前日から、2人でハードな滝を見ていたので体力は既に減り気味。更に睡眠時間が約3時間だけという無茶な決行。
まずは長い林道歩き。南京錠でしっかり塞がれているゲートの手前には5〜6台の駐車スペースがあります。
まだまだ夜明けにならない時間なので、ヘッドライトを装着し歩き始めます。綺麗に整備されているのでスニーカーの方が楽に歩けると思います。こんな所で体力を低下させる訳には行かないのでゆっくり歩く。まぁ真っ暗な世界なので早くも進めませんでしたが。
この林道は本当に長いです。4〜5kmあります。
やっと丸石谷との出合い。先ずは大きな堰堤が二つ待ち構えています。ここは左岸で越えます。
ここからは遡行になりますので、靴を沢靴にチェンジ。林道歩きで使った登山靴は脇に放置して出発。
長い長い遡行です。岩は大きく、傾斜のきつい場所もあります。5m級の滝がいくつも掛かっていて、右岸・左岸を何度も渡渉しては進みます。ルート選びもそうですが、岩が大きいので乗り越えたりするのに全身運動なので体力が減ります。この辺りの景色はまったく変わりばえがしない為、「さっきも歩いたのではないだろうか?」と不安になる位でした。
林道歩きよりも長い時間を掛けて歩いた先に、やっと目印の10m級の滝が現れます。その先に「百四丈の滝」への門番25mの「黒滝」が構えています。この2つの滝を越えるのが最初で最後の難関であり、最も過酷な道のりです。
大高巻きの始まりです。まずはガレ場。細かい岩が積み重なって傾斜を作っている場所を上り始めます。足に体重を掛けると簡単に岩崩れを起こします。踏ん張りが利かなくて上るのがきついですが、有難い事に残置ロープがあるのでそれを利用してガレ場を越えます。この時点で10m滝の上にいます。
そしてふと下を見ると、川が小さく見えます。掴む木々もない場所ですから、足を滑らせたらそのまま滑落するだろうと恐怖を覚えます。
微かな踏み跡を辿り平行移動。踏めば沈む地面、相変わらず掴むものは見当たらない。傾斜もきつい場所なのでバランスを取るのにも神経を使います。
そのまま踏み跡を進んでいくと、正面に「黒滝」が現れます。ここで行き止まり。どうにも進めない。
仕方なく一旦戻り他のルートを探します。すると傾斜が更に強い草つきの所に踏まれた後が上部に伸びています。ここを上るとは信じ難い状況でしたが、ここしか見当たらないので覚悟を決めて取り付きます。
草を掴んでも千切れてしまう、足は草ですべり保持出来ない。少しづつ少しづつ体をずらしてはバランスを確保しゆっくり上って行きます。よく転落しなかったなと思うくらい危なかったです。
草つきを上り詰めると体重を支えられる太い木々が密集しています。その枝を掴んだとき、とてつもない緊張感に包まれていた事に気付きました。死を目前にした恐怖感に全身が覆われていました。ようやく呼吸が出来た、そんな感覚です。
まだまだ高巻きは続きます。今度は木々を掴みながら上へ上へと体を運びます。相変わらず傾斜はきついので全身運動で上って行きます。葉が視界を塞ぎ、高度感の恐怖からは解放されます。落ち着いて上っていきます。
ここは細尾根になっていて、木々の間に黒滝が見えます。気付けば黒滝は遥か下方。
この木々がずっと続いていれば楽だなと思うのですが、上り詰めた所はまた足場の悪い草つきが現れます。
ここでやっと上りは終わり。草つきに残る微かな踏み跡は緩やかな下りへと変わります。
しかしそこは相変わらず踏ん張りの効かない地面。むしろ同じ場所に止まっていると徐々に土がずれて行く脆い場所です。ここは持参したロープを使い体を預けつつ下っていきます。
草つきの踏み跡は、ルンゼへと続いています。このルンゼも急傾斜です。それでもここは木々があるのでしがみ付きながら降りていきます。
やがてルンゼが一気に急降下。ただでさえ傾斜がきついのに更に傾斜を増す。ただの崖としか思えません。
これを降りるのは無理だ、私自身は戦意喪失。しかし先人が残したマーキングが先に続いている。道はここしかない。
ここで新たにロープを使い、完全にロープに体重を預け下ります。ロープを掴む握力に全意識を集中させました。力尽きたら転落確定。死が隣り合わせの感覚を高巻きを始めてから何度味わったか分かりませんが、ここが一番震えていたと思います。
そのルンゼを降りたその先は、黒滝の落ち口。垂直に水が落下する黒滝の落ち口からは、先程まで私達が悪戦苦闘していた場所が見えます。心底生きている事に安堵しました。
ここからは特に難しい事はないです。今までのように遡行。渡渉を繰り返し上流へ上流へと進みます。
やがて見えてくる一本の滝の流れ。あぁ、これが百四丈の滝だ。かすか遠くに生き生きと崖と飛び越えていく滝が見える。
気付けば吼えていました。今までの苦労、その滝への感動、すべての込み上げて来る感情が溢れ出るように叫び声となって吐き出されました。
たどり着いたその空間は、楽園かと思えるような自然の美しさがありました。滝の飛沫で揺れる生き生きとした草、濡れて光る岩々。雪が舞っているかのようにシンシンと舞い落ちる滝水。滝壺はクレーターのようにぽっかりと口を開き、まるでオアシス。人が踏み入れない自然の美、あまりにも美しすぎて言葉が出ませんでした。
完全なる直瀑のその滝は、およそ100mの垂直の崖を、どこにもぶつかる事なく一気に落下。空中を浮遊する水は、細かい粒子となって右へ左へと風に揺れながら滝壺へ落ちる。
水の競演乱舞。一瞬たりとも同じ姿を見せず、本当に水が踊っているように思える。水のダンスとも言うのだろうか、見ているとこちらも心踊り、今までの疲れは掻き消えていた。
秘境の中の秘境。そこには想像できなかった美しい滝がありました。女神を見たように思えます。

コースタイム
3:45 駐車場より林道へ出発
↓ 舗装路歩き
5:30 丸石谷の出合い
↓ 遡行
8:15 黒滝と10m滝
↓ 大高巻き
10:45 黒滝の落ち口
↓ 遡行
11:15 百四丈の滝
12:15 出発

18:30 駐車場到着
他写真
訪問日 2007/10/23

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