現在時刻、16時15分。
元来た道を戻るだけなので、ルートは把握出来ている。
というか沢に下りてからが勝負だ。どれだけで戻れるのか、焦りは生じているが急かした所で危険が増すだけなので、ただ見守る感じで先行して進む。
Bが滑落した谷の通過は、大きく迂回する事で谷に近づくことなくやり過ごせた。
全体的に動きが遅くなってきた。予想よりもグンと鈍い。
ここまでずっと歩き通しなのだから、体力の消耗もあるだろうけど、それ以上に遅くなっている。
頑張って歩いているのは確かなのだが、全く進んでいないように思えるほどゴールが遠い。
日没まであと2時間35分
このペースで進んでいると、沢の中盤で暗闇になるのはもう認めざるを得ない現実であろう。
地形図を確認したり、GPSで現在位置を見る回数が増える。
後ろを振り返る。3人とも黙々と懸命に歩いているが、体力の低下が表情にも現れている。苦しそうだ。
ヘッドライトがあるのは確認済みなので、闇夜で動けないって事はない。
しかし、山歩きが未経験なのに、闇の沢歩きなど出来るだろうか? あまりにも危険過ぎる。
ここで、一旦足を止めて皆で固まって3人に状況を伝える。
現在位置はここ。つまりまだまだ車が止まっている出発地点には辿り着けない。
そして、このままのペースで歩いていると、沢の途中で日没になる。
そこで大きな賭けに出る提案をし、3人に選択を委ねる。
沢から離れて右岸の波線(登山道)を目指してはどうか? と。
登山道を目指す
水色線はイメージ |
そう言われてもピンとは来なかったと思う。
その提案に付け加える。
右岸の沢から大きく離れた岸の上には登山道が記載されている。もしもそこまで登れたら安全な道で帰れる可能性がある。
闇の沢をヘッドライトで探りながら歩くのは転倒や怪我で行動不能に陥る恐れが高い。その点、山の方が遥かに安全であると思う。
メリットだけではなく、次いでデメリットも伝える。
波線まで高低差200m程を登らないといけない事。しかも道ではない斜面なので相当体力が削られる。
もしも崖が出てきて登れなければ、山は諦めて沢に戻るしかない。登って消費した体力と時間が無駄になると分かった時点で、気力体力共に限界値に達し、行動不能になるだろう。
それと、無事に波線まで行けたとして、安全で楽に下山出来るかは分からない。
悪い事の方が多いような気がするけど、暗闇の中でヘッドライト点けて沢に浸かりながら歩くよりかは断然に良いと思う。
問題は3人の体力。滝を終えた後は顕著に体力の低下が見える。その状態で山を下るのではなく、登る事が出来るのか。
3人は私の言葉を受けて、目を合わし相談を始めた。
まとまった回答は、登山道に向かう為に登る事であった。
誘導的に伝えたので、その回答に至ったのは必然かも知れないけれど、現状の不安やこの先についての状況把握を共有出来たのは大きいと思う。
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