双門の滝
Data | 双門の滝 落差70m 奈良県吉野郡天川村 |
現地へ | 吉野山の北部。国道309号の終わり付近。川を渡る橋が見え、そこに滝の案内図もある。徒歩4〜5時間。 |
コメント | ここは秘境の滝です。故に辿り着くまでに相当な覚悟が必要です。ベテラン向きの登山道を進みますので、まず軽装備では痛い目を見るでしょう。 岩の道は、随分距離があります。所々案内を示す矢印等がありますが、ただの一本道なので間違えることはありません。その沢は小さな滝と滝壺で行き止まりになってます。ここから左側に本格的な登山道が待っています。 45度以上の梯子(しかも錆だらけ)、鎖もついていない岩場、柵のない橋、案内の乏しい道、今まで体験したことのない危険な道で、落ちてしまうという不安で心臓がずっと高鳴っていました。私が行ったときは橋が崩れて道に穴が開いていて、仕方なく山側に木を頼りによじ登り、クリアした箇所もありました。 そんな危険に晒された道を慎重を進んで行くと、やがて大きな広場に辿り着くます。そこが滝見台になっています。 聳え立つ崖を削ったかのように滝があります。直瀑かと思いきや、上部では細かく段になっています。右側に見える崖に威圧感を感じます。しかし、滝はその崖を支配しているかのように堂々と強く流れています。是非とも滝壺から見上げたいものですが、ルートはあるのでしょうか? 帰りは降るだけなのですが、梯子が非常に怖かったです。見えない足元を探りながら全身を使って降りていくのは相当体力が擦り減りました。 ちなみに私は、何も装備が無く知識も無く、こちらへ来たことがあるのですが、その時はルートから外れてしまい、気付いた時にはどこに居るのかさえ分からなくなりました。遭難と言うやつですね。 あれ? と思ったときには戻る道が見当たらなくなってる。3時間ほど彷徨って、元の道に戻れましたが、この体験以来、装備の大切さと事前準備を怠らなくなりました。 2010年、再訪問。 「滝壺に行けそうだ」そんな情報を耳にし、昨年から行ける時を渇望していました。 夏は涼しい東北へと予定を立てていたのですが、前々日に東北地方に台風が直撃し、その後の天気予報も悪い状況だったので、急遽行き先を変更。 予定している3日間とも晴れ予報である近畿へ向かう。そうなると目指す滝は必然とこの双門の滝になりました。 仕事・育児を終えて出発。ガソリン補給でSAに寄った以外はずっと高速を運転し、道の駅「吉野路黒滝」に夜明け近くに到着。正直しんどい。 40分程仮眠して、いざ双門へ。1回目は遭難、2回目は滝見テラス到達。3回目はどうなるのか、怖くもあり楽しみでもあります。 想像付かぬ滝壺に思いを馳せながら、林道前の橋に到着。 分かっていた事ですけど、林道にはゲート(かなり頑丈)があり車で入れなくなってました。以前は何もなく、車で奥まで行けたのに残念です。 ダラダラとした林道、ちょっと上り勾配なのがまたいやらしい。そういえばここで鹿の喰われた後の死骸に出くわしたなぁと怖い過去を思い出しました。 歩き始めて30分後、左手にガードレールと白川八丁という沢に下りる分岐の道が現れて、そこで林道とはお別れ。 左に下りる道を進み、白川八丁へ。 台風の影響はここでもあるのだろうか? 伏流ではなくなっていれば見物だ。なんて楽しみに沢を進んで行くと、そんな気持ちが吹き飛ぶほどの虻の来襲にてんてこ舞い。幸い指を一箇所刺されただけで済みましたが、目の前を飛び回られて精神的にやられました。 途中からただの岩場に水が現れ川になりました。 やはり今日は通常よりも水が多い。水量豊かなのは滝ヤにとってはとても喜ばしい事なのですが、ここ白川八丁だけでいうと煩わしいの一点に尽きます。進む為には川を徒渉しなければならず、飛び石の少ない場所であり、よく滑るので浸水しないように渡るのは気を遣いました。 林道から30分後。白川八丁の終わりを告げるガマ滝に到着。以前は水が滲みている岩って感じでしたが、今回は立派な滝になっており心弾みました。先程まで纏わり付いていた虻もどこかへ姿を消してくれたので、滝前は憩いの場になりここで小休止。 ガマ滝の左に登山道があり、ここから本格的な山道の始まり。最初はしっかりとした道で歩き易いです。 途中から迂回路が数箇所出てきます。大岩が突き刺さっている鉄製の橋を横目に通り過ぎたり、ひしゃげた梯子を見て崩落の凄さに驚きつつ斜面を登ったり。迂回路にはロープが張られていて分かりやすく誘導してくれるので迷う心配はありません。 以前は一箇所だけ崩落地があり木の枝を頼りに突破しましたが、随分と道は荒れた様です。 その一番の変化が本流沿いを進むルートに変更された事でしょう。以前の道は山の斜面に切られており、沢に下りる事はなかったのですが、橋が崩れ落ちてしまったのか左岸の沢沿いを進むようになりました。 ここが最初の難所です。対岸への渡渉、沢沿いの大岩登り。強引に作られた道なので、力いっぱい登るしかありません。 そこを越えて暫く進むと一の滝と二の滝が迎えてくれます。相変わらず見事な滝に惚れ惚れ。しかし目的地はここではないので、早々に出発。 ここからは双門の名物、梯子登りです。堅固な梯子なので安心して体を預けられます。普段使わない筋肉を駆使しますので疲労が嵩みました。 両岸が切り立った(左右ともに崖)馬の背を通過する所は慎重に。 そして一番肝が冷える箇所の鎖場に到着。6・7m程の岩場で、傾斜はさほどきつい訳ではないのですが、視界があまりにも広がり過ぎています。ちょっと頭を下げればストンと真下が見える崖っぷちで地面は遥か彼方。落ちれば何秒か空中遊泳するでしょうし、致死率100%だと思います。 恐怖心を押し殺して進むのは至難であり思い通りに体が動かないのも必須。 前回ここを見たときに恐怖で手足が竦み、諦めかけました。様々な滝を見て色々怖い経験を積んで成長した今の自分には、この鎖場がどう写るのか今回の楽しみの一つでした。 再びこの鎖に手を掛けた時、やっぱり怖くて震えました。何だか成長してなかったみたいで自分にガッカリです。 ぎこちない動きで鎖にしがみつきながら、岩場を突破。 後は今までの作業の繰り返し。えっちらおっちら梯子を登って、最後は斜面を下って滝見テラスに到着。不思議な事にここだけは平坦な地面になっておりバドミントンのコート位の広さがあると思います。ここから双門の滝を遠望。相変わらず右のそびえ立つ岩盤にしびれます。緑豊かなこの時期は滝壺が隠れてしまい全景が見えなくなるのは仕方ないですね。 滝見テラスまでの道程を振り返り、ここは間違いなく百選最難関であると確信しました。以前よりも道は危険になっており時間も掛かりました。今後も崩落するごとに危険も時間も増す事でしょう。 さて滝下へ向かうルートをテラスから探します。 木々に隠れて見え難いですが、なるほど右岸に白い岩が積まれたガレ場がある。ここに降り立てれば滝下はすぐだと予想は付きました。 持参したハーネス・エイト環・ヘルメットを装備してガレ場に出合うべくテラスを出発。 山道を辿って上へ上へ。一向にガレ場が見えずもどかしい。慰霊碑を越えた先でガレ場が見えましたが、下が崖で近寄れずまだまだ上へ。 視界が晴れ渡り、立派な橋がある所でようやくガレ場との出合い。滝下まで200m程も上にいます。 さぁここからが今回の本番。体力はまだ残っている。帰り道も長いので、この時点で疲労を隠せないようでしたら諦めた方がいいです。 ガレ場の下りで怖いのは落石と浮き石による転倒と滑落でしょうか。踏むとあっさりと転がっていく石が多く足場が非常に不安定です。足を捻挫でもしたら帰れなくなりますから、石の見極めやバランス確保に忙しく簡単には下りれません。 ただガレ場を下りれば良いという訳ではなく、岩盤や大岩が切れ落ちていて下りれない箇所もあり、回り込んだり隙間を探ったり、道を見つける目が必要であり切り開いて進んだ経験がないとまず辿り着けないと思います。 ここのガレ場は本当に脆い石だらけで、大雨でも降れば簡単に形を変えると思います。よってその時々で下り方は変わって来ますので、全く参考にならないかも知れませんが辿ったルートを記載します。 最初はガレ場の左側(もしくは左の樹林帯)を進み、傾斜が厳しくなったら右側の岩盤に突き当たるまでトラバース。この岩盤の手前は岩が大きく滑落の危険があったので8mのお助け紐を垂らして体を確保。10m程下りたら左にある溝に入って再び右壁へ。木々を頼りに進むと下に沢と左に双門の滝が見える(落ち口辺りの高さ)。まだ沢に下りず同じ高さのまま左へ(滝に向かって)トラバース。砂利混じりの草つきを越えて滝壺を俯瞰する。3・4m程崖が垂直に落ちているので、ここでザイルを出して懸垂下降。 そして滝壺に到着。 あれほど遠かった双門の滝が今目の前に。 感極まり体の内側から次々と興奮が放出されました。 吸い込まれるような美しさを持つエメラルドグリーンの滝壺に目を奪われる。滝水の躍動感はこの弥山のエネルギーそのもの、噴き出すその力を全身で受け止め心が弾む。振り返れば何人も弾き返すような巨岩ひしめく険しい沢に身震いをする。そして何と言っても左岸の岩盤、垂直にそびえ立つその強大な威圧感には身がすくみ畏怖の念を抱く。 難関の門をこじ開けて立つ事を許された滝壺は、荒々しくかつ険しく、それでいて限りなく輝いていました。 しかし、まだ見ぬ滝壺に想像を膨らませ期待を持ち過ぎてしまった事は悔やみでしかありません。滝の素晴らしさは薄れ、岩盤の迫力に物足りなさを感じてしまいました。 自分の想像を超えるまだ味わった事のない甘美に包まれるのだろうと楽しみにしてましたが、実際は範囲内の感動であり、滝は予想よりも小さく、岩盤には仰天する程の興奮は得られませんでした。 しかしこの滝は秘境そのものであり、人と会話する事の少ない滝と対峙出来たのはこの上ない喜びでした。 滝壺への情報を教えて頂いた、ぴなさん・三重の汚点さんに感謝いたします。 6:00 ゲート前・出発 6:30 ガードレール 7:00 ガマ滝 8:00 双竜滝 9:00 一の滝・二の滝 10:00 鎖場 10:20 滝見テラス 10:50 出発 11:20 ガレ場の出合い・下降地点の橋 13:00 滝壺 13:45 出発 15:00 ガレ場の出合い・下降地点の橋 16:00 滝見テラス 16:40 三の滝 17:20 一の滝・二の滝 18:40 ガマ滝 19:40 ゲート前 (正確な時間ではなく概算です。休憩時間も含まれています) |
他写真 | |
訪問日 | 2004/04/30 2010/08/15 |