同行者 フグさんの記録はこちら!!
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ミラクルが待っている。
高瀬川の上流、硫黄沢。
長く長く遠く、歩いた先にようやく出会える滝。
そこはきっと奇跡なような世界がある。
そう確信出来る。
なぜなら、この滝は文字通り真っ白い岩盤に流れるという、唯一無二のミラクル的な存在だから。
滝は全てが世界で一つだけの滝であるから、どの滝だってもともと特別なオンリーワンです。
でも、それでも、似通った滝が存在しない、唯一ここでしか出会えない稀有な姿形をしている滝に心惹かれてしまう。
会いたい気持ちが日に日に強くなっていく。
きっとトキメク。胸キュンな世界に行かせて欲しい。
9月、ようやく実行の日。
時は来た。
天気予報はずっと不安定。テンクラではAだけど、SCWで見ると降雨の予報。
前日の夕方まで悩みに悩む。初日の14時から19時までは雨が降る予報で確定のようだ。そして二日目は確実に晴れる。
ならば初日は移動して雨を耐え、二日目に滝を目指そう。
そう計画し、行くことを決めました。
天気予報が良い方向で裏切ってくれることを信じて。
北アルプス、高瀬ダムから伸びる伊藤新道の先にある目的地。
ものすごーくながーい距離を歩かないとならない。
その距離、想定ではおよそ15km。これが片道です。
テント泊の重い荷物を背負って林道から沢登り、とにかくひたすら歩く。その覚悟が必要です。
高瀬ダムに向かう起点は七倉山荘前の駐車場。
ここに午前3時頃に到着し、ひとまず仮眠。
2時間くらいは眠れた。
ここから先はマイカー通行禁止となり、常に配備されているタクシーに乗ることになります。
空が明るくなり、6時を過ぎた頃にフグさんが登場。
今回はフグさんとデートです。
どうぞ宜しくお願いします。
平日の早朝には我々より先に7人くらいが並んでおり、タクシーが七倉山荘前にやってくると次々と乗車して消えていく。
私達が準備をしていると、タクシー乗務員の方から声を掛けて頂き、「登山届を書いておいてね」「タクシーはすぐに来るから並んでてね」と優しく案内を受ける。
登山届の紙も投函口もゲート右側のトイレの前に設置されているので、必ず記入しようね。
さあ僕らの順番になったので、荷物をタクシーに入れる。
乗車は3人まで可能で片道2300円(2024年現在)。なので乗り合いだと割り勘になります。
タクシーは単調に進み、高瀬ダムの上に到着。
下車する前にタクシー乗務員からアドバイスを受ける。
・湯俣川の伊藤新道を歩くのなら、途中の湯俣山荘で改めて登山届を出すこと。
・高瀬ダムに戻ってきた際にタクシーが待機してなければ公衆電話(ダム上にある)で連絡くれればすぐ行きます
・帰りのタクシーは16時が最終なので気をつけて下さい。遅くなったら七倉山荘まで歩くことになります。
わぉ、16時までに戻らないとタクシーに乗れないとは調べ不足だった。
明日は下山だけにしとかないと間に合わない。今日を思いっきり頑張るしかないと覚悟を決めた。
さあ重い荷物を背負って歩き始めます。
まずは高瀬ダム沿いの林道を、続いて高瀬ダム沿いの林道を、更に進んでも高瀬川沿いの登山道を歩く。
嫌になるほど長い道。ほぼ平坦だから疲れはしないものの距離はしんどい。
湯俣山荘までは約9.5kmあるんすよ。ただ歩くんす。
北アルプスの景色は壮大で気持ち良いですが、ずーっと歩いているのは気が滅入る。
そこで有り難かったのはフグさんの存在。ずっと面白い話を聞かせてくれたので、ダルい林道歩きがかなり軽減させてくれました。
5kmちょい歩いてとりあえず林道は終了。
なんでここまでタクシー走らせてくれないのだろう。追加でお金掛かってよいのに。てか、ここに折り畳み自転車持ち込みって出来るのかな?
さて、ここからは登山道。と言っても林道よりは狭いってだけで平坦で歩きやすい。
この近辺の沢も気になりますが、寄り道なんかしないでとにかく突き進む。
午後から雨が降り始める予報だから、なんとかそれまでに距離を稼ぎたいと思っています。
高瀬ダムから歩き始めて2時間30分、ようやく湯俣山荘に到着。
なんか凄く綺麗な建物。ってあとで調べたら50年振りに再開したようだ。リニューアルしたばかりなんですね。
登山届けを出すべく建物に入るとお姉さんが奥から出てきた。
そして差し出されるiPad。
時代ですなぁ。登山届けもデジタルで入力ですよ。
で、行き先は硫黄沢の奥にある「白い滝」だと告げると、
「しらかげの滝ですね」と返答。
あれ、名前が違うようなと首を捻るとお姉さんは伊藤新道のマップを見せてくれて、確かにそこには「白影の滝」と記載されている。ただ、場所が違くて硫黄東沢の奥にあるようだ。
で、肝心の目指すべき滝を追っ掛けると硫黄沢の遥か奥に「幻の白い滝」と表記されていた。
正確な位置が分からずに来てたので、このマップで滝の場所が把握できたのは嬉しい。
ここ、ここと指したけど、やっぱり遠いな。気が滅入るぜ。
と話を戻して白影の滝だ。これは知らなかったぞ。もう1滝ゲット出来るかと思うと嬉しい。
そしてそのマップを見ながらお姉さんから伊藤新道のアドバイスを頂く。
今の水位はとても落ち着いていて歩きやすい事。壊れてる吊り橋での渡渉は、上流に行ってからの方が渡りやすい事。
テント泊するなら、第五吊り橋の所が広くて安全と。
いいなぁ、このマップ。素晴らしい。500円で売っているようだ。
今すぐに欲しいけど、雨に濡られたくはないので、帰りに買おうと決めた。
明日、ここに戻ってきた時に、成功の報告とマップを買って、お姉さんの笑顔を見よう。
新たな目標が出来たから、やる気が更にアップした。
さぁ、伊藤新道を進もうではないか。
まだまだ先は長い。
今のところ天気は安定していて青空が出ている。このまま降らなきゃ良いなと願う。
湯俣山荘を後に、道は変わらず川沿いに続いている。
電力会社の施設を通り過ぎると、ここからは伊藤新道という名の、沢登りが始まる。
緩やかな傾斜の高瀬川だが、勢いは強い。灰色の川は底が見えず、不安定。
前方には煙がモクモクと上がっているのが見えた。
ここは滝とは別で行きたいと願っていた噴湯丘。
ドクタースランプの栗頭先生に似ているデザインには驚愕だ。
石灰華で作られた自然の造形。
周りは熱すぎて触れない温度の温泉が湧き出てるし、硫黄なだけに異様な世界。
この噴湯丘を写真で見たとき、すげぇ行きたいと思って調べたけど、ムチャクチャ歩く事が分かって諦めたものです。
でも滝の為なら、ここが通過点になってしまうのだから我ながら滝への熱意は凄いと思った。
でも今日は時間が無いので、明日ゆっくり観賞しようと決めて先を急ぐ。
湯俣川は茶色い岩肌と青い水。
温泉が流れているこの川には生物が存在しないのだろう。
苔もないし、木々も川から離れた高い所にしか自生していない。
おそらく魚もいないのだろうな。
苔やヌメリもない事から全く滑る心配がないので、道中はとても歩きやすい。
見渡す絶景を眺めながら歩きやすい所を適当に進んでいく。
やがて第一吊り橋が登場。
2023年に復建した吊り橋はこの一年でほぼ崩壊し、残っているのはこの第一だけ。
この川の暴れっぷりに驚かされる。怒らせないように気をつけなければならない。
次いでガンダムには見えないガンダム岩。
ここにはホッチキスが打たれていて、うまく大岩をすり抜けていく。下は川だしほぼ垂直なので、緊張する箇所だ。
ちなみに登山道でよく見るこのUの鉄骨をホッチキスと呼ぶのを、湯俣山荘のお姉さんに教わった。勉強になります。
第三吊り橋跡を通過。
ちょこちょこテン場適地と思われる平坦な場所が確認出来るが、湧き水が見当たらない。
一箇所、高い崖から流れ落ちてくるチョロチョロの枝沢があったけど、触ると結構ぬるめ。岩清水の冷たさが感じられない。
これだけ大きな河川だから、湧き水も豊富だろうと期待していたが、カラッカラな大地。
最終手段はこの本流の温泉を簡易浄水器通して利用するつもりだけど、凄くマズそうだから遠慮したい。
しかしそれが現実になりそうでやや不安感が増す。
そしてテン場としてターゲットにしていた第五吊り橋に到着。
今までの適地よりも全然広いフラットな場所。ほぼ整地なしでテントを晴れる環境。
これは素晴らしい。是非ここで泊まりたい。
あとは水の確保だ。
湯俣山荘のマップにはこの場所の左岸に水のマーク(枯れる場合あり)と記載されているので探ってみたが、まるで気配がない。
増水時や雨後でないと水は流れ出てこないのだろう。
しかし、右岸の絶壁にはか細い滝が落ちている。
遥か上から流れ落ちているが、常時安定して流れている水ではある。
飲めるか分からないけど、本流よりは良いはずだ。
これなら大丈夫だ。
幸いな事にまだ雨は降っていないので、快適な内にテントを設営しちゃおうとなった。
寝袋や食料、バーナーなどの泊まり道具はテント内に仕舞う。
必要最低限の身軽な状態になり、滝を目指します。
ちなみにまだ目的地ではないのに、ここまでで既に15km歩いて約6時間が経過している。
これでやっと重装備から解放された。軽快に歩けるってもんだけど、今度は疲労が出てきて思い通りに進めない。
それでも歩みは止めない。これまでは湯俣山荘を目標にして、それを通過したらテント設営を目標にしていた。
やっと滝を目標にし歩めるんだ。時間はある。雨は降っていない。
グッドリズムだ。
伊藤新道は第五吊り橋から先は高瀬川から離れて三俣山荘に向けてグ〜っと一気に登っていってしまうので、ここで登山道とはお別れだ。
高瀬川を更に遡行して、その上流にある硫黄沢を目指す。
湯俣川の上流域に来てるので勢いはやや弱くなり渡渉しやすくなった。
硫黄東沢との出会いの前に4m程の幅広の滝が現れる。
心が揺さぶられる美しさ。ここが目的地でも十分に満足出来る素敵な滝であった。
ここは滝の右側の溝を、やや濡れながらよじ登った。
増水時は左岸から大きく巻く事になるだろう。
硫黄東沢との出合い。ここには見事な温泉があるようだ。
あとお姉さんに教えて貰った白影の滝があるはず。それは帰りに立ち寄るとして本命を目指す。
大岩が積み重なった傾斜のキツい流れを突き進むのは面倒そうだったので、右岸の斜面を上がってトラバースに回避。ここにはしっかりとした踏み跡があった。
この辺りから天気予報通りに雨が降り始める。青空もチラホラ見えているけどしっかり濡れてしまう雨量にやむなくカッパを着込む。
ただ雨は降ったり止んだりの断続的で本降りという感じではないのが幸いだ。
さあ目的地は近付いた。硫黄沢の出合いだ。長かった。まだ到着してはいないけど本当に長かった。
マップの位置からして、硫黄沢もそれなりに歩かないと滝には着かない。
難所はないけど、怖い点がある。
それは硫化水素の存在。
文字通り硫黄が流れているその沢には、殺傷能力の高い硫化水素ガスが出ているはず。
お姉さんは言っていた。「硫黄沢に硫化水素の検知器を持って行くと、ずーっと警告音が鳴りっぱなしだった」と。
硫化水素は空気より重いため、沢床や溝に溜まっている可能性がある。
見渡す硫黄沢は非常に広々としていて大気開放的。それに現在はやや風も吹いているので、溜まる要素は少ない。
特に不穏な匂いも感じないので、安心して進んで行けた。
序盤の硫黄沢は足湯に最適な温度の暖かい沢。筋肉が和らぐ安らぎの温度。全く冷たくないので気持ち良いものだけど、ずっと靴のまま温泉に入っていると靴の接着剤が温泉の熱で剥がれるのではと心配になったので、なるだけ岩の上を歩いた。
遥か先に大きな二俣が見える。
そこだ、恐らくその近辺にあるはず。
あと少しがひたすら長い。体力は僅かしか残っておらず、息切れしてすぐに立ち止まってしまう。
雨は降ったり止んだり。歩行にはあまり影響はないので、問題無く進んでいく。
雨は覚悟の上での行動だから受け止めているが、心配なのはガスの存在か。
いざ滝を目の前にしたのに、真っ白になって何にも見えないのではさすがに報われない。
お願いだから、ガスは出ないで。欲を言えば雨も止んでください。
もしこれで見えない状態になったら僕は北アルプスを嫌いになってしまう。どうか好きでいさせて下さい。
山肌に白い筋が見えた。あれだ。
幻と言われているが現実に存在している。
もう少し。しかし疲れて歩みは遅く、なかなか近付かない。
お願い北アちゃん、滝を見させて。あと少しで到着するから、歓迎して。
最後は懇願しながら登って行く。
高瀬ダムを出発してから17.6km、8時間20分。
長かったよ。来れたよ。着いたよ。
白い滝の下流域に足を踏み入れた。
白い岩肌にサラサラとした流れ。
この硫黄沢の水の色は、白か黒。
しかし白い滝の水は透明で、岩盤が白い。
周囲は茶色い岩盤なのだが、そこに石灰華が塗り重なる事で、滝の流れる箇所だけが白くなっているのだろうか。
鍾乳洞の中を歩いているようだ。
中流域、もっとも幅広く白い滝の見栄えが良い。ここがベストビューだね。
水の流れだけを見れば優しい斜瀑。水量は少ないので迫力は皆無。
白い岩盤に流れる滝。というその唯一無二な存在に価値がある。
普段は飛沫を浴びて楽しんでいる私だが、この滝には違う拘りで訪れた。
ヒョングリ、穴滝、幅広など特徴的な滝姿にはやはりトキメク。
そんなレアな滝の中でもここはずば抜けた印象度でしょう。
来て良かった。ここまで歩いてきた価値は確かにあった。
そしてここには訪れるだけでなく、やりたい事があった。
それが「滝 de スーツ」だ。
色んな人が、色んな滝でポーズして写真を取る。それは当たり前だ。
その格好は当然ながら登山服が一般的。
だけどそんな中、滝前でスーツを着るというカオスな事を行う方が居る。
滝という大自然の中で、スーツというビジネス街の格好でいるのがインパクトありすぎて最高だと先駆者の方々の写真を見て楽しんだ。
私もやりたいな。でも二番煎じでは面白くないし。どこかハマる滝は無いだろうかと常に狙っていました。
この白い滝こそ、その舞台に相応しい。
あまりにもクレイジーで自分でも笑ける。
テントなどの重い道具が入ってパンパンなザックなのに、そこに全く持って無駄でしかないスーツと革靴をぶち込みました。
そんな無駄に重くなったザックを背負って、睡眠時間は約2時間という寝不足の中で、17km以上を歩いてきたのです。
そして滝前で登山服も沢靴も脱いで、Yシャツを着て、ネクタイを結び、スーツを羽織り、革靴を履いたのです。
やってる事がアホすぎる。
だから、楽しい!
唯一無二な滝で行う破天荒。
混沌で猥雑。
この為に頑張って来たんだもん。
スッゴくエクスタシーでミラクルでした。
そんな姿を同じくハイテンションで撮影してくれたフグさん。本当にありがとうございます!
滝の迫力は皆無な故、見て楽しむ滝なので一通り撮影を終えたら撤収。
これでもう登りはなく、ほとんど下るだけなので気持ちは楽になる。
白い滝の前では本降りだった雨は、次第に止んでいき晴れ間が見えた。
滝に滞在してる時だけ雨が降るなんて北アちゃん切ないよ。
帰りの寄り道。硫黄東沢の温泉と、白影の滝を探しに行く。
高瀬川と硫黄東沢の出合いの高台に温泉はあった。人が4人程入れる大きさ。温泉マニアがうまく掘って調整したのだろうと思われる。
とりあえずは滝が優先だ。って事で荷物はこの温泉に置いていき空身で硫黄東沢を遡行。
滝は歩いてすぐ見つかった。白い水が、白い岩盤を落ちている。真っ白すぎて水が見えずらい。
面白いのは脇を固めた黒い筋。ここからも温泉が沸き出しており触るとしっかり熱い。そして触れると指が墨汁のように真っ黒になった。
まさしく白影だ。
箱根の黒たまごと同じ成分なのだろうか? 科学的な事はよく分からないけど、とにかく異質。
どんな滝が知らずに来たけど、まさかこんなキン肉マンゼブラのような衝撃的な滝に出会えるとは思わなかった。
これにはフグさんも大興奮。やはり水は勢い良く落ちている方が楽しいよね。
滝としては、白い滝よりも白影の滝の方が素晴らしかったです。
ちなみに、マップの位置ではもうちょっと上流を指しているように思ったので、この滝を右岸から高巻いて念のため上流部を探索するため遡行してみました。
小さな滝が連発しているだけで際立った大きな滝は無かったので、この下流の滝が白影の滝で間違いないと特定しました。
嬉しい誤算で最高の滝に出会えてもうお腹一杯。
もう疲れまくってるので、テン場まで戻るとしましょう。
ただその前にせっかくだからこの硫黄東沢の温泉に入りましょうか。
最初は記念に1・2分浸かってすぐに出るつもりだった。
しかし、腰まで入ったら気持ち良くて抜け出せなくなってしまった。
熱すぎずぬるすぎず、40℃くらいの一番気持ち良い温度。
真っ白な湯の花が底に堆積しており、それがフワッと優しく体を包む。
今日一日、酷使しまくって強ばっている体。汗と雨で濡れた服に冷やされた体。
疲労感がこの温泉で昇華していく。体が芯まで暖まっていく。筋肉が柔らかくなっていく。
汗が出てきたら、露岩に座って肌を外気にさらす。ちょっと冷えたらまた温泉に浸かり湯の花に揉まれる。すっごく癒される。
そして見渡すは北アルプスの絶景よ。
ぬぁんて贅沢極まりない温泉だこと。
温泉の為に、ここまで歩いてくる気持ちも良く分かる。
温泉付きの沢泊は初めて。かなり疲労回復させて貰い、明日も頑張れる自信が沸きました。
ちなみにこの温泉の脇にはテントを3基ほど張れるスペースがありました。
ただ水場が無いので、ここで泊まるには重い水を背負って来なければならないので大変です。
湯の花を全身でまとった火照った状態で、濡れて冷たくなった服を着るのは凄く嫌な気持ちだけど、テン場まで沢を下らないと行けない。
温泉があまりにも気持ち良すぎて気付けば日没になってしまったので、ヘッドライトを付けて歩く。
20分ほど歩いて、テン場に到着。
中に置いていた荷物は盗まれる事もなく昼のままでホッとした。
晩ご飯の為に水を補給する。
昼に当たりをつけていた右岸のチョロチョロとした滝に触れると冷えた水が流れている。
試しに飲んでみると苦味もなかったので岩清水であろうと浄水器を通さずに利用した。
この第五吊り橋前のテン場には、常時流れている水場があるので、水を沢山持ってこなくてもここで補給出来るので安心ですよ。
本当は焚き火をして、炎の揺らぎを見ながら晩ご飯にしたかったけど、周辺には岩と砂しか見当たらないので諦めた。枝を集める為に樹林帯まで登る気にはなれません。
見上げると雨上がりで満点の星。
最高の景色の中で食事を終えて、フグさんに挨拶をして寝袋に入った。
翌日、夜中は穏やかで風も冷えもなく、快適に眠れた。
気付けば目覚ましタイマーで起こされる程の爆睡であった。
マジよく寝れた。
昨日は無事に目標を達成出来たため、今日は来た道を戻る。
とにかく16時までには高瀬ダムのタクシー乗り場に行かなければならない。
難しい所はないし、時間には余裕があるので特に焦りはせずに行動開始。
下っていくと、よくよく人とすれ違う。
合計で20人以上は会った。
聞けば昨日に現地入りして湯俣山荘か隣の清嵐荘で宿泊していたようだ。
そして次の日に伊藤新藤を歩き始める。
これが一般的な歩き方なんだろうな。
疲労からか昨日よりも歩みが遅い。その分、周囲を見渡し楽しみながら下る。
すると川の脇にケルンがちょこちょこ確認出来た。
何の為に積んだのかなって最初は疑問だったけど、ケルンはちょうど良い渡渉点だと分かった。
増水すればたちまち流される代物だろうが、もし見付けたら先人の方が設けた渡渉点ですので、利用しましょう。
昨日は先を急いでしまった噴湯丘を今日はゆっくり見学。
周囲には触れないくらいの熱湯が湧き出てる箇所がいくつもある。
ゆで卵つくりてぇと思ったけど、ここまで生卵を運んでくるのは大変だね。
湯俣山荘に到着。
お姉さんにご挨拶。覚えててくれて無事に滝に行けたと報告したら喜んでくれた。
そしてフグさんと山荘に売ってるお酒を買って乾杯。
まだ道中は続くけど、ここで一杯やるのは大人の嗜みでしょう。
贅沢な一時でした。
あとはもうたいして変化のない景色を見ながら、我慢の歩き。
ここらでザックの重さに苦しめられる。雨を吸い込んでいるスーツと革靴が無駄に重くてムカつく。
お馬鹿をやるにはそれなりに代償が必要なのだ。
最後の林道歩きはまぁ本当に長い事。何にも難しくないけど、疲れてしまって二回休憩させて貰った。
15時、無事にタクシーが止まっている高瀬ダム上に到着。
七倉山荘前に無事に帰って来れた。
後は汚れた体を綺麗にするために七倉山荘の日帰り温泉を利用する。下山後にすぐに温まれるのは最高ですね。
早速、体を洗い始めると我が息子の白さに驚く。まるでホワイトウィンナーだ。
おいおいどうした? 疲労が溜まると色が変わるようになったのかとビビったが、洗ったらノーマルのウィンナー色に戻ってホッとした。
そうか、昨日の硫黄東沢温泉の湯の花でコーティングされていたのだろうと納得した。
湯船に浸かりながら、フグさんと将棋の感想戦よろしく2日間を語り合う穏やかな時間。
そして一言。
「硫黄沢だけに、内容が良かった」
「いおうだけに? ないおうが?」
・
・
・
お後がよろしいようで!
9月10日
6:15 七倉山荘タクシー乗車
6:45 高瀬ダム 歩き始め
8:10 名無し避難小屋(6.1km)
9:20 湯俣山荘(9.5km)
:45 出発
10:05 噴湯丘(10.4km)
11:50 ガンダム岩(13.3km)
12:40 第五吊り橋 ビバークポイント(15.1km)
15:20 幻の白い滝(17.6km)
16:30 出発
17:40 白影の滝・硫黄東沢温泉
18:45 出発
19:05 第五吊り橋 ビバークポイント
沢泊
合計時間 13時間29分
平面距離 20.1km
9月11日
7:00 出発
9:50 噴湯丘
10:35 湯俣山荘
11:15 出発
12:20 名無し避難小屋
14:35 高瀬ダム
合計時間 8時間51分
平面距離 15km
追伸
硫黄の臭いは中々に強烈で、使用していた洋服やタオルは洗濯しても臭いが落ちずに、2週間ほど嫁さんに臭い臭い! と文句を言われ続けました……。
硫黄の強烈な臭いというお土産を強制的に持ち返らされますので、行かれる方はご覚悟を……。
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