天竜川 支流
遠山川東沢左俣大滝




所在地
長野県飯田市

地理院地図 (←クリックすると国土地理院のHPにて位置を確認できます)
評価(5段階) ★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆◆
現地へ 芝沢ゲートから易老渡を経由し聖岳に向かう登山道を利用。後半は遠山川を沢登り。
訪問日 2021年7月24日
夏はかっさーさんと滝巡りが定番となり風物詩になって来ている。
今年もお世話になります。

百名山である光岳、聖岳。南アルプス深南にある著名な山々からの水を流す遠山川。その上流は東沢と西沢に別れ、東沢では更に右俣と左俣に別れる。
その左俣に70mの大滝があると登山体系の遡行記録に記載されています。

ただそのように記載されているだけで、実際どんな姿なのかは全く分かりません。
古い記録だからもう滝がなくなっているかも知れない。いかがなものかとGoogle Earthで付近を見てみると滝があるのが確認出来ました。これが70mあるのなら凄い感動が得られそうだ。想像するだけで楽しみになりました。

行き方は一択。東沢を遡り左俣までの沢登り。どのような道中になるのか、記録では大変だったような表記はないけれど、とにかく距離が長い。
滝に会えず時間切れによるギブアップは嫌なので、最初から一泊装備で挑むようにしました。

本当は昨年に向かう予定だったのだけど、アプローチに必須な林道が豪雨の影響で崩落し、歩行も許されない状態になってしまった為に断念しました。

そして今年、道路の補修を終えたようで通行可能と発表があったので決行となりました。

オリンピックの開会式を車中のテレビで見ながら中央道を爆走し、3時過ぎに道の駅「遠山郷」に集合。
挨拶もそこそこに起点となる芝沢ゲートまで向かいます。

狭くうねった山道を進んでいくと路肩に車が何台も止まっているのが見えました。
芝沢ゲートに近付くにつれて車は増えていきます。まだ夜中なのにとんでもない台数にびっくり。

4連休中だけど、コロナ禍だしオリンピック開催だからめっちゃ空いているかと思いきや、駐車場は溢れかえってはみ出しています。予想外でしたが、それだけ皆が山を愛している証拠なんでしょうね。
自分達は運良くゲート近くに空きを見つけてそこに駐車出来ました。


さて、車内から取り出したのは自転車。
芝沢ゲートから先は車は進入禁止だけど、自転車は大丈夫の模様。アスファルトとダート道が半々の割合で走りやすいみたい。

自転車を使うのはかなり久し振り。最近は林道歩き5キロとか普通だったので、自転車利用をかっさーさんから提案された時にそんな道具があったかぁと思い出しました。

しかし自分は普段の生活では徒歩か車での移動。以前に使っていた折り畳み自転車は古すぎて廃車にしてしまいました。
この為だけに買うのは惜しいので、夏休みで使わないって事で娘の自転車を貸して貰いました。

一泊装備はやはりそれなりに重い。肩の肉がめり込んでくるのが辛い。
周囲を見ていると自転車を出している方がチラホ居りました。皆、考える事は一緒なんですね。

芝沢ゲートの脇を普通に抜けてサイクリングの始まりです。


序盤はアスファルトの緩やかな登り。朝一で体力はあるので頑張って漕ぐ。

弱虫ペダルの小野田坂道になった気分で回す、回す、回す。心の中では「ヒメはヒメなのさ〜」と歌ってます。
2kmくらい走った辺りで撃沈。息切れヤバい。普段全然乗らない自分にはキツすぎる。エキサイトバイクで言えばターボしっぱなしで走ってるのと一緒なので、あっさりオーバーヒートで戦線離脱です。

横を見ると、かっさーさんは汗一つ掻かずにのんびりペダルを漕いで、スイスイ進んでいる。こやつは風の翼を持つクライマー真波山岳かと疑いましたが、そうではありませんでした。

なんと電動アシスト付き自転車。そりゃスイスイ登るわけだ。聞けば滝の為に購入したと言うじゃない。すごい熱意です。

昨年にかっさーさんと談話していたお題に「三種の神器」ってのがありました。
一眼レフ、GPS、沢靴、ハーネス(ロープ)、防水コンデジ、高さ測定器など、滝を楽しむ為にはみんな様々な道具を駆使しています。

昔の、つまり旧三種の神器はGPS、沢靴、防水コンデジかなと考えました。

では現在、新三種の神器はどうよ? と検討した時に二つは簡単に決まったけれど、もう一つの神器はどうにも見つかりませんでした。(もうAED《自動体外式除細動装置》で良くね? とか検討したりはしましたwww)

今回のかっさーさんの動きを見て、新三種の神器がまとまりました。
・GoPro
・ドローン
・電動アシスト付き(折り畳み)自転車

どうです? この三種。流行りの言葉で例えるなら「ビタ着」じゃない?
異論はあると思いますが、自分なりにめっちゃスッキリしました。

と言ってても息切れは収まらず、もう自転車を漕ぐ気力も失せてしまいました。とにかく帰りの為に頑張って自転車を押して進みます。

芝沢ゲートから、およそ4.4km先にある易老渡に到着。


ここは易老岳や光岳に向かう起点となります。

MTBがズラッと並んでいます。でも駐車されていた車と自転車では台数が全然合わないので、歩いてきている人が大半でしょうね。
僕らにとってはまだ途中。その先へ向かいます。


道はより傾斜がきつくなり、ダートも増えます。とてもじゃないがママチャリを漕ぐ余裕はありません。ひたすら押します。

そんな中、神器を装備しているかっさーさんは颯爽と登っていく。羨ましい。

易老渡からおよそ1.8km。自転車を押し続けて便ヶ島に到着。


便ヶ島
キャンプ場だったらしい

電話が使えるぜ
登山届書きました

元々はキャンプ場なので、広場や水場もあります。有料駐車場と看板に記載されいるけれど、車で来れないし人気がありません。

ここから先は聖岳に向かう遊歩道になるので、自転車では進めません。ちゃんとした歩きが始まります。


明確な遊歩道は歩き易いし平坦なので軽快。途中に現れる無名の滝を楽しみつつ進んでいくと西沢渡に到着です。


まずは西沢を渡渉する必要があるのですが、吊り橋のようなワイヤーが張られています。
人力のゴンドラです。初めて見ました。感激です。これに乗って移動すれば対岸へ濡れずに渡れるようです。
すげぇ! と興奮しながらコンドラを引き寄せる為にワイヤーを引っ張ります。

10秒くらい引っ張って、ゴンドラはちょっとしか動かないしワイヤーが重いのを確認出来たので、面倒くさくなって普通に沢に入って渡渉しました。
いやぁこれかったるいわ。靴脱いで渡った方が楽なんじゃないかな。

西沢を過ぎて、とりあえずはまだ登山道を利用。しかし登山道はここから遠山川東沢を離れ、聖岳に向けて尾根を登っていきます。我々は東沢から離れる訳にはいかないので、登山道と離れます。

廃屋を過ぎた所で、登山道から離れ東沢の右岸を進みます。


薄いけれど踏み跡があるのでそれを辿り、ちょい迷いながら堰堤上に出ました。
ここからはとにかくゴーロです。勢いの強い流れの東沢、渡渉を何度となく行うが水の底が見えなくてやや緊張する歩み。
でも落ち着いて進めば大丈夫。


青薙という巨大なガレ場を通り過ぎ、名のない茶色いガレ場も通過。ただただ、ひたすらゴーロ歩きです。長い距離を歩いているけど、何にも記載する事がありません。

我慢の歩みを続けて進めていると、無限に思えたゴーロの景色がようやく変わり始めました。


高く、本当に高く聳える岩峰。突き上げる岩壁。人を寄せ付けない巨大なオーラを漂わせています。
二俣の登場。今はまだ岩壁に隠れていますが、これを左俣に入れば大滝が見えるはずです。

しかし、その前に連瀑帯が現れました。
右岸から越えていきます。順調に進めました。

最後、これさえ越えれば左俣に入れるという二俣の手前に、大木と巨石が突っかかって出来た5m滝が立ちふさがりました。


掴む所は確かにある。足場も何とか見つかる。
問題はオーバーハングしてるって事。これがクライミングジムで、下がマットならば果敢に攻めて無事に越えられるだろうと想像が出来ます。

しかし、ここは人も道も電波も何もない南アルプスの深南。
もしも落下して怪我したら大変な事になると思うと手足が伸びません。弱虫です。

ちゃんとガバッと掴める凹凸があって足場もあるし、イメージは出来ました。でもそのガバホールドが剥がれ落ちる可能性がないとは言えない。

ちょっと登っては怖くなって降りてを繰り返して、やっぱり駄目だと諦めました。
高さ5m、これを越えればゴールが見えているのに、あまりにも遠い5m。

高巻きに気持ちを切り替え、どちらかを検討。この5m滝の落ち口上の左岸には薄いけれど溝が見えました。ここにロープを下ろせれば越えられそうだと目算がつけられたので左岸を選択。

左岸高巻きの始めを探しつつ一旦、5m滝に背を向ける。頑張って登ってきた連瀑帯を下りる虚しさを噛み締めて、東沢を戻っていく。

100m位は戻ったかな。左岸にあるガレ場よりも上流地点に岩壁の上に出れる斜面を見つけ、取り付いてみる。
獣なのか人なのか、とにかく踏み跡が確認出来たので、それを辿っていくと露岩部の上部の樹林帯まで登れました。

藪の少ない緩やかな斜面を登っていき、二俣に向けて進んでいく。

その途中、かっさーさんが唐突に「滝だ!」ってめっちゃ叫びました。
左俣を遠くに見つめると確かに遥か上方に落ち口が見えました。

デカい! ここから一気に70m落ちているかと想像すると素晴らしい姿に違いない。

一刻も早く滝前に立ちたいとアドレナリンが上昇しました。
左岸高巻きをそのまま続けていくと、大滝の全景が徐々に見えてきます。
そして全てが見えた時、アドレナリンの放出が減少してしまいました。


直瀑ではなく、段瀑だったとは。
30、30、10の合計70m滝かな。

この高巻き中から見る大滝の全景は、それはそれは見事。左右共に何人も寄せ付けないような突き上げた岩壁の存在感は比類なきパワーを誇る。

そしてその圧巻なる岩壁を裂いて落ちる滝なのだから、物凄い存在感。

が、しかし、段瀑ではダメだ。

想像は容易い。真下に立った時、上段は見えずただの30m滝にグレードダウンしてしまうでしょう。

段瀑の全景は、見栄えはする。美瀑の部類には段瀑がいくつもエントリーされてますし、段が増す毎に美しさも増すと思ってます。見て癒される、絵になる滝が段瀑の魅力です。

しかし悲しいかな、迫力は反比例してしまいます。それはもう段が増える度に減少します。

なのでこの滝は遠望でこそ映える滝であって、直下の魅力は少ないでしょう。

大きさ、形、直下のイメージはつく。遠望こそ想像を越えた素晴らしさがあったけど、直下は想像の範疇だろう。
そう思っちゃうと、これからの行動がちょいと意気消沈。とても興奮していたかっさーさんも全景が見えたら無口になってしまったし。

まぁね、それでもね、滝前に行きましょう。
当てにしてる溝はどこにあるかな、そうやって藪を漕ぎつつウロウロ彷徨う。

ムカつく事に、ここの藪はトゲが多い。掴めない藪なぞウドよりもたち悪い。お陰でお気に入りのTシャツがほつれて無残な姿になってしまって悲しい。

溝の起点には丁度良い大木があって、それを支点に懸垂準備。


お互い持ってきた30mロープを繋げて60mにしてダブルで下ろす。落石が多いし、ロープの整理しつつ下りるので今回はちゃんとバックアップ処理をして両手離しても滑落しない安心な懸垂下降を心掛けました。

無事に5m滝の上に立つ。
この標高5mを越えるのに110分も掛かってしまいました。大変なもんです。でも怪我もなくここに立てたのだからオッケーです。

一番下の10mは斜瀑で、脇の詰まれた岩場を登っていったら問題なし。

そして30m滝。
真下もちゃんと行ける。でも、知ってる迫力、知ってる飛沫って感じ。田立の滝群の「らせん滝」が反転した感じ。


勿論、70mの迫力はありません。魅力も威力も半減されちゃって、感動もダウンです。
そうじゃないんだ。未だ知らない感動を与えて欲しかった。

分かってます。勝手に滝に期待して、勝手に舞い上がって、勝手に落とすって、どれだけ滝に失礼なんだって。
滝に罪はありません。当たり前です。
悪いのは盛り上がった自分です。本当にごめんなさい。
しかし、滝下に来れた嬉しさより、悲しさが勝ってしまいました。

飛沫に浴びるのはソコソコに、写真撮影もあっさり終える。
逃げ場のない両岸聳える巨岩の狭間にある滝では、正面しか撮れないのも残念だ。
ちょうどお昼だったので、ここでおにぎり食べたけど、何ともやるせない食事でした。

せっかくここまで頑張って来たのだから、右俣の滝も見ようじゃないか。


すぐに40m滝があると記載されているけれど、二俣から先に見えるのはせいぜい10m程の滝。もしかしたら小さくなっちゃったかな? これでは大滝とは言えないなぁ。

二俣からは右俣も左俣も滝だし、岩壁は立ちふさがっているので、進めません。

懸垂下降で下りてきたロープで元の左岸上まで戻るのだけど、急斜面だし掴む所少なくて、ただ戻るのにも体力と時間を奪われた。

左岸高巻きの踏み跡は先に続いている。物凄く薄いので、歩きやすい所を選んでトラバースしていくと右俣の10m滝よりも上流部まで進めた。

沢に戻るには急斜面だったので、ここでもロープを下ろしました。

で、ちょいと進むと三段滝の登場。合計で30mくらいかな。滑り落ちる綺麗な滝です。


ここを左岸で高巻いて先を見ても小さい滝しか見えなかったので、右俣ではこの三段滝が大滝と特定。

さて、これでやる事はやった。後悔はない。下山しましょう。
帰りは元来たゴーロを戻るのみ。自転車漕ぎ、高巻き、重い荷物背負って頑張って来たので、体力は落ちていて行動は重い。
テント広げてすぐにでも横になりたいけれど、良きテン場はここにはありません。

往きに見つけた唯一のテン場(ただテントを広げられるフラットな地、水場無し)があった茶色いガレ場の対岸の岸上まで戻る。時間は15時。
まだ明るいし、まだ体力残ってるから、もうちょい頑張ろう。

そんなもうちょい頑張ろうを続けに続けて、下るに下って人力ゴンドラのある西沢渡まで戻って来ました。

時間は17時30分。もうここで限界。登山道はフラットだし西沢の河川があるので、ここにテントを広げました。

そう言えばヒル見ないね〜(この辺りは生息地)とか雑談してたら、普通に足に張り付いていた。慌てて振り払う。なんかテンションが落ちた。

西沢を見つつ、焚き火しつつ、晩ご飯たべようと思っていたらボトンボトンと大きな水玉が落ちてきた。
午後から雨予報だったのに、ここまで降らなかったから好天したかと安心してたけど、ここに来て予報的中。
テント内で寡黙な晩ご飯。焚き火を諦めた事で更にテンションが落ちて、そのまま眠りに落ちていった。


次の日、目覚まし時計では起きられないくらい眠った。前日はオリンピックのせいもあるけどほぼ徹夜で動いていたのでバテバテだったのです。

起きたのは聖岳に向かう登山者の足音と話し声。
いやぁ、よく寝た。でも寝坊してすいません。

とりあえず朝食を取ろうとテントのチャックを開けるとヒルがいた。
鎌首もたげてる姿が朝の挨拶をしているようだったけど、今日始めて見る生物がヒルって、なんかとても嫌な一日になりそうで気分は重くなった。

今日は下山だけ。もう半分以上は下ってきてるので、ノンプレッシャー。
まったり歩いて便ヶ島。


さぁこっからは自転車のダウンヒル。漕がないでも進んでいく下りだぜ。ただしパンクは怖いので、ブレーキ一杯握りしめて、ゆっくりゆっくり下って行くぜ。

風をビュンビュン感じる。久しく忘れていた感覚。自転車気持ち良いわ。
あともう少しって所で後輪が案の定のパンク。

最後までテンションを落としに来る遠山川、なかなか厳しい滝巡りでした。


7/24
4:55 芝沢ゲート 出発
5:45 易老渡
6:10 便ヶ島 到着
6:30 出発
7:10 西沢渡
7:50 東沢 堰堤上
8:10 青薙
9:40 二俣手前の5m滝
11:30 5m滝上
11:40 下段30m 到着
12:20 出発
14:00 右俣大滝
14:25 出発
16:30 青薙
17:30 西沢渡 テン泊

7/25
6:30 西沢渡 出発
7:15 便ヶ島
7:30 易老渡
7:50 芝沢ゲート 到着

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