黒川大滝



Data 住所 北杜市
評価(5段階) ★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆◆
現地へ
雨乞岳の南部、黒川の上流にある。釜無川の工事用ゲートから歩き始め、黒川を遡行。5〜6時間で到着。


コメント
釜無川の上流部、黒川にある滝マークです。なかなかに険しい場所にある滝です。

多段の滝のように右に左に上へと飛び交いながら落ちてくる様はスピードスターのような瞬発力を持った滝で、その忙しさからパパパパンと往復ビンタをされたような衝撃を受けました。

「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出しなさい」の教えの通り、逆の頬を差し出そうと顔を向ける前にすでに頬を打たれ、更に打たれって感じで発言すら出来ない目にも止まらぬスピードで張り手されたかのような勢いで落下しており、優雅とは対局にいる迫力と速さを特徴とした滝でした。


昨年の黄蓮谷の3人で今年も南アルプス入り。道の駅はくしゅうで待ち合わせするのは何回目だろう? よく覚えていないけれど、殆どが深夜訪問な気がします。

打ち合わせでは滝までの往復ではなく、山を超えて別の地点に下山するルートを考えました。同じ道を帰るのは面白味がないですから、どうせなら最後まで知らない道を楽しみたいと画策しました。

あっきーさんの車を下山予定である雨乞山の登山口前である石尊神社の駐車場に止めます。サントリー工場の奥にある石尊神社の鳥居前に10台ほどのスペースがありました。

ここから私の車に乗って頂き、釜無川の奥地まで入って行きます。

釜無川は堰堤工事のメッカで、平日はトラックが沢山走っているようです。もっとも重要なのは、ゲート前に小屋があって平日はその小屋から人や作業車の出入りを監視しているみたいで、仕事とは関係のない登山者、釣り人を追い返すようです。

日曜は工事が休みなのでその点は安心です。なのでこの周辺を巡るようならば日曜日が無難です。でも工事をしている平日は川から遡行して林道に戻れば問題なしという記事もあったので、それも有りかも知れません。

ゲート前は駐車禁止の立て札があるので200mほど戻った広いスペースに車を止めました。既に先客が止まっています。私達が準備をしていると更に2台来ました。なかなかの人気具合に驚きです。

歩き始めてゲートを通り過ぎて、ひたすら長いダート道を進みます。特に面白味はありません。

出発から4.5km、60分歩いてやっと黒川の出合いである堰堤が登場です。

ダート道から下りて釜無川を渡渉して、堰堤を左岸から越えます。踏み跡もロープも有るので安心です。

ここから沢登り。すると先人の釣り人と出合います。まだ竿は垂らしていませんが、笑顔で挨拶して通過。

第2の二段堰堤が出てきて、ここを右岸から越えます。急斜面で掴むものがないバランス勝負のトラバースはいやらしいです。もしかしたら左岸の方が楽だったかも知れません。

堰堤の上に出ると堆積された砂浜があるかと思いきや、驚きの堰堤湖が現れました。しかも結構深いので、トラバースを続けなければなりません。水の中から生える訳がない太い木が湖に浸かっていたので、多分、雪解けの今だから見れる光景だと思います。

腰くらいの深さになったら、トラバースも面倒になったので水の中に入りました。まだまだ水が冷たく、タマタマが一気に収縮しちゃいました。

さてまた沢登りです。そして軽快に進んでいるとまたも釣り人登場。人気の川なんですね。
挨拶をすると、ここから先にある堰堤まで左岸の岸上を歩けるから、申し訳ないけれどそちらを進んでくれないかとお願いを受ける。

釣り人は沢ヤが嫌い、沢の中に入れば魚が逃げてしまうから。ドンパチになる時もあるようだ。
単独の時に釣り人に何回か会ったが、皆さん爽やかに挨拶を交わすだけで非難された事はなかった。
今回も気持ち良い挨拶を交わせて、不快な気分にならずに通過出来ました。
早起きして、ここまで歩くなんてお互いよっぽど好き者です。趣向は違うけれど自然を楽しんでいる同士ですから共存出来れば良いなと思います。

さて釣り人が言った通り、左岸の岸上を歩いていると堰堤が現れて、これを左岸から登って堰堤上を歩いて右岸に移って、また沢登り。

この辺りからより自然観が出てくると共に、南アルプス特有の黄緑色の水の流れが見えるようになってきてとても気持ち良い歩き。

そして出ました4度目となる堰堤の登場。ここは地形図に記載されていない堰堤。真ん中が通過できるようになっているので特に巻く必要はなく直進が可能。

しかしこの先の景色には愕然としましたよ。更に奥に堰堤を造ろうとしているようで、黒川は壊滅的に整地されていました。町で見る川のように均されていて、木々は抜かれ流れも勢いも人間の都合の良いように変形させられていて、滝巡りの世界から日常のコンクリートジャングルに戻ってしまったような錯覚に陥り哀しくなりました。

重機が走っている道が黒川の上流に続いており、サクサクと軽快に歩けるのは時間短縮になったと前向きに整理して、進んでいくと鬱蒼とした黒川が戻ってきて、綺麗な水を遡行する気持ち良い時間が帰ってきました。

二俣(ほぼ1:1)を左に取ると沢を埋める岩が背丈よりも大きくなってきて越えられない岩から逃げる為に岸上をトラバースで進むと、3段の大きな滝の出現。

これはレポになかったので驚きですが、岩を伝う水の流れが秀逸で、更に滝前が砂場になっていてとても気持ち良い空間。特に上段の流れは美しかったですね。

この滝を右岸で高巻くと遂に黒川大滝の滝壺が見えました。

大滝は滝壺でカックンと直角に角度を変えている為、ここでは滝の全体が見えません。でも岩を叩く唸る音と爆ぜる飛沫の水煙が微かに見えて、その威力の凄さに興奮です。

正面から望むには荒々しい下段を越えないと行けないのですが、先人のレポートでは滝壺に跨る倒木を登って越える様子。しかしその倒木は見た感じ落ちてしまったように思えます。これでは下段を越えられないと判断して右岸の高巻きを選択。

急斜面でいやらしく、久しぶりに「俺はこんな所で何をやっているんだ」と逃げ出したくなるくらい怖かったですが、江戸切子さんがいともあっさりと越えていったので、何とか付いて行きました。

太い木にロープを掛けて、それを頼りに下降すると下段をクリア。ここで滝の正面が見えました。

と言ってもまだ岩盤が立っていてもう一段上がらないと滝を正面から見えないので、再度右岸から巻き上がり。これでようやく全体の姿を見れ、最後は再びロープを出して岩盤に乗ると真正面に立てました。

しかし、これほど安らぎとはかけ離れている滝見は、それはそれで珍しい。奥行きの幅は畳一枚分くらいしかないスペースで油断すれば転落しかねない狭さ。そこで集中して撮影するなんて厳しい。バランスを崩すと転落だし、飛沫がレンズに掛かって拭うのは面倒だし、真上にある太陽光線のゴーストを処理しないといけないしで、気持ちも体も全然リラックス出来ない空間でした。

満足できる撮影は出来なかったけれど、この大滝の迫力と対峙出来て充足しました。

さあ下山しよう、と滝に背を向けてまずは下流に向かう。

ここからが今回の未知のルート。

目指すは北部にある雨乞岳の登山道。
このルートは今回の滝巡りの中で一番の冒険でした。

当初は前松尾沢の左岸尾根を上がっていく予定でしたが、大きな岩壁に阻まれてもう一つ南にある枯れ沢とその尾根に取りつくしかない状況でした。

そのまま尾根をスムーズに上がれたら良いのだけど、尾根は岩壁に突き当たり、脇のガレルンゼに追いやられました。
一番の肝です。花崗岩が生んだ砂が堆積されたルンゼ。そのルンゼの下部は崖です。砂で滑ったら止まれないで崖から放り出されます。ここは自分では無理だと別の道を探そうと思いましたが、江戸切子さんは飄々とルンゼを上がってしまいました。

後で話を聞いたら「今までの経験上、滑るとは思わず行けると判断した」との事で、自分とは全く別の判断をしている事に感服しました。スベらない自信、彼にはきっとお笑いのセンスが身に付いているに違いない。

いつもながら助けて貰って、ルンゼを越えて岩壁の上に乗ると、あとは急とは言えない斜面を踏ん張りながら登っていく。

ここで自分の体に違和感。猛烈に息が上がる。5mも登ると息が切れて体が止まってしまう。

何故だ? なぜこんなに疲れる? もしかして「高齢者に進言(信玄)を 早めに健診(謙信)を」のCMで有名な弁膜症か? ちょっと何言ってるか分からないが動けないのは確かだ。例年以上にジョギングして体力の向上に努めているのに、何故に斜面を上がるだけで息が切れてしまうのか。これが年齢による劣化なのか、はたまた一昨日に8km走った疲労が残っているのか、とにかくふくらはぎが痺れているのは確かだ。

登って止まり、登って息を整え、2人には待たせてしまって迷惑を掛けてしまいました。本当にすいません。

無事に尾根を登って稜線に出ると、か細い踏み跡が見える。北には雨乞岳が、そして名所である水晶ナギという白い斜面も見えます。

下りでは全く問題ないが、登りになった途端、急激にブレーキが掛かりつつ一人だけゼーゼーと肩で息をしながら水晶ナギに到着。
一面が白砂の世界、遠くに日向山、更に富士山もちょっと見える。麓では道の駅はくしゅう周辺の街並みが見える絶景でした。

さてここからは明確な登山道です。ちなみに雨乞岳の山頂も見えているのですが、誰も興味なし。さすが滝ヤだと感心します。

迷いようがない一本道をひたすら下るだけ。とにかく長く、変わらない景色にはうんざりですが安全な道です。

後半はヘッドランプを点けて歩き、無事に雨乞岳の登山口である石尊神社に到着。左に行くとすぐにあっきーさんの車が闇夜に浮かびました。

ここであっきーさんが一言。

「じゃあここで、お疲れ様でした(笑)」

なんちゅー恐ろしい事をサラッと言うんですか、いやいやいや、ここで解散は勘弁して下さい(笑)と懇願し、無事に起点である釜無川のゲート前まで乗せて頂きました。


5:00 釜無川 ゲート前 出発
6:00 黒川 出合の堰堤
6:20 第2の堰堤
8:20 第4の堰堤
10:00 三段滝
11:00 黒川大滝
12:10 出発
14:45 稜線に乗る
15:50 水晶ナギ
19:20 石尊神社前 駐車場到着

沿面距離 18.98km

※撮影・休憩を含めた到着時間です。
他写真
訪問日 2018/05/20

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