Data |
住所 |
みなかみ町
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評価(5段階) |
★★★★★
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難易度(5段階) |
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現地へ |
行き方は二つ。@奥利根湖からボートを利用して沢登り。A十字峡より登山道で山を越える登山。いずれにせよ2泊3日必要。沢登りの方がポピュラーだが難易度は高い。 |
コメント |
この滝に憧れを抱いてから何年になるだろうか。奥利根の秘境の沢登りの本でこの滝の写真を初めて見た時、物凄い衝撃を受けたのを覚えています。
以前、奥利根のダムからボートに乗せて貰い(有料)、遡行して滝下に行こうという計画を立てたのですが、台風が接近中だったので中止になりました。
あれから4年。今度は沢ではなく、山を越えて直接アプローチしようと計画しました。 道中は物凄く長いです。だから山越えは敬遠してたんですけどね。
9月20日
まずは三国川ダムを通り過ぎて奥の十字峡へ。陽が登らない内に登山センターに車を停めましたが、ゾクゾクと入ってくる車で周辺の駐車場を含めてほぼ満車状態。日向山(中の岳?)に向かう登山道は人気のようです。
僕達は三国川沿いの道を進み、中尾ツルネを目指します。こちらに歩いている人は全くいません。不人気です。
川沿いの五十沢渓谷沿いの道は、一般車は通行不可でゲートがありますので、舗装された道をひたすら歩くだけ。平坦なので自転車を持ち込むのも有りだと思います。
二度目の橋で水量の豊富な内藤沢を渡ったら本谷山の案内が出てきますので、ここでようやく登山道の中尾ツルネに入ります。 尾根をひたすら登るだけ。急登が多く、重いザックがますます重く感じます。この中尾ツルネではスズメ蜂の目撃情報が多かったので、蜂撃退スプレーとポイズンリムーバーを用意してきましたが、遭遇はしなかったです。
長い長い尾根道。寡黙に息切らしながら、休憩しながらひたすら登ります。仙の滝を遠望し終えた辺りから左右の木々が低くなり遠くの山が見え始め、きつい登りではあるけれど気持ち良く進めます。
本谷山が見えてきて分水嶺の稜線に出ると360度見渡せる開放感たっぷりの尾根道になります。ここで一瞬だけauの電波が入ったけれどすぐに圏外になってしまった。 本谷山の麓へ向かうにつれ、道が怪しくなります。稜線未整備と十字峡にある看板に書かれてましたが、こんなに歩きづらいとは驚きです。自分の胸辺りまで伸びている背丈の高い笹が前方を塞いでいます。掻き分けて進むのがまあ面倒くさい。平泳ぎするみたいに笹を左右に除けて、バキバキと踏み潰しながら突き進む。結構な全身運動です。 さあようやく今回二泊する予定の沼地が見えてきました。 尾根道の何が心配かって水の確保です。沢を進む時は水に困らないですけど、尾根は湧き水なんてありません。ザックに入ってる水がいわばライフゲージみたいなもので、もしそれが尽きてしまえば命が危うくなります。
そんな貴重な水を確保出来る沼地という名のオアシスが今回の宿になります。
見事に綺麗な沼です。周りは草で覆われていて、ゴミが殆ど浮かんでいない。地面は草のお陰で寝転がるとフカフカしていて寝心地良さそう。ちょうど窪地になっている為に、稜線ならではの強風にも影響を受けない。宿泊するには持って来いの環境です。欠点を言えば周囲が笹と草だけなので焚き火で暖が取れない事ですかね。
明るい内にツェルトの設営を終えて、沼の水を沸騰させて晩御飯。ついでに更に水を煮沸して空いたペットボトルに注いで明日の飲料水を確保。 暗くなる頃には寝袋に潜り就寝〜。仕事終わってほぼ徹夜で歩いてきたので速攻で眠りました。
9月21日
さあ滝を目指す日。ここからが本番です。夜中はツェルトの結露が顔に落ちてきて起こされたのがうざかったけど、シュラフカバーにくるまって凌いだ。よく寝れたと思う。
朝ご飯を食べて、ヘルメット被って出発。ちなみにツェルトは張ったまま放置です。滝アタックは少しでも身軽にしたいので、3日目の食料やバーナー、寝袋もツェルトの中に置きっぱなしです。ここまで来て盗まれる事も無かろう。
中間尾根から滝へ目指すのは未知なので不安ですが、それまでは尾根歩きで分かり易いはず。そんな苦労しないだろうし、遅くても夕方には沼に帰ってこれるだろうとタカを括っていました。まさかこんなに長い1日になるとは、朝の時点では思いもしなかった。もっと早く出発してれば良かったと後悔しましたよ。
出発して5分。さっそく後悔する事になる。
昨日と引き続き笹を掻き分けて登って行くのだけど、朝露に濡れている笹の中は雨と同じでした。気付いた時には服も靴の中もビショビショ。カッパを着れば良かったと濡れた体が震えながら文句を言ってきます。
沢で濡れる事には慣れているけれど、今回は登山靴なので気持ち良いものではないです。簡単に乾かないだろうし、明日も濡れた靴を履くと思うと気が滅入る。
本谷山の山頂からルートを誤って南の尾根に向かってしまい30分のロス。ちゃんと地形図を見ないで適当に歩いた結果です。山頂付近だけ稜線っぽくないので間違えてしまいました。 改めて山頂に戻り北東方向へ進む。下り斜面だけど、この先が大変でした。なにせ自分の背丈よりも高い笹が視界を塞いでいるのです。
掻き分けても現れるのは笹。足元も左右も笹だけ。微かに見える稜線を見失わないように体を押し込んでいく。満員電車に無理やり体を捻じ込んだりして車内に入る時と同じ感覚です。
笹密集地帯を終えて平坦なコルで一息。ここにも池があると記載されていたけれど、枯れていました。安定的に水があるのは僕らが宿にした本谷山の西の麓だけのようです。 そこから急斜面の登りを終えて、幅の狭い尾根を歩く。やがて中間尾根が見えてくる。
とても大きくなだらかな尾根に見える。左右の沢には雪渓がビッシリ乗っている。溶けた水が流れ大滝になるのだろう。
今までは県境を歩いていたけれど、ここからは秘境の地グンマー帝国に侵入する。パスポートは持ってきていない。原住民に遭遇しなければ良いが・・。 まずは露岩帯。申し訳程度にブッシュと草が生えている。逆層の凹凸が多く、どこに足を置いて下っていくか悩む。登れるけれど下るのは大変というパターンだ。
終わると密集の藪。次いで露岩とこれの繰り返し。藪は本谷山の笹と同じくらい過密になっていて前方が見えず進行方向を見失う。視界の開いている方に藪を掻き分けて、いざ体を前に出したらそこには尾根はなく、崖になっていて腰を抜かしそうになった時もありました。
それでも藪は掴んでいれば落ちる心配はない。問題は露岩帯。フリーで下りるには怖い斜度の所もありロープを2本(共に10mほど)使い帰路の為に残置。途中の中間尾根ではロープを使いたくなかったのだけど、やむを得ない。
ナイフリッジと呼んでも過言ではないほど尖った尾根もありました。狭い所で幅50〜60cmかな。ちなみに左右共に崖なのでバランス崩したら滑落です。鉄骨の吊り橋を渡るカイジの気持ちがちょっと分かった気がします。
心臓に悪い中間尾根を下っていく。精神的なダメージが大きく、歩みは「嘘でしょ?」って自分でも思うくらい遅い。 やっとひとまずの目標地点である一目で右俣と中俣の大滝が眺望出来る箇所に着いた。 まだまだ、これからが本番だ。しかしどうしたことか12時になっているではないか。ここまで5時間も掛かってしまっている。単純に今から沼に戻っても17時。登りの方が時間が掛かるから日没をどこかで迎えるかも知れない。安全を考慮すれば滝下アタックは諦めて引き返す方が良いだろう。だけどここまで苦労してやってきて遠望で終了? そんなんで帰れるかバカヤロウ。 降りられそうな沢筋というのは、茶色の小石が乗っているラインであろう。確かにここだけ傾斜は緩やかに見える。 中間尾根と同様に藪や笹を握り締めつつあまり沢筋から離れないように下り易い所を探して下りていく。
中段の大滝落ち口が見えるようになってくる。この中段だけでも60mくらいあるらしい。その下に下段の滝も見えるはずなんだけど、全て雪渓で埋まっていた。昨シーズンは雪が多かったのだろう。 このまま下りていくと中段の滝下に出てしまうので、沢筋が崖になって安易に下れなくなったのを頃合いと見て、トラバースの開始と舵を左に切る。
そこは藪の密集地。雪の重みで万年垂れ下がっている藪は足場をなくし簡単に進ませてくれない。
20mくらいはトラバースしただろうか。ちょいと一息入れたいと思った所で、やや上部に露岩が見えたのでそちらへ上がっていく。 平坦な岩場となり程よい休憩場所になっている。さてこの岩場に出会えたのが幸運だった。ここから先も平坦であり、棚になっていたのだ。藪もなくサクサクと歩ける。
そのまま平行に移動していくと右俣大滝の全景が見えるようになる。藪の小尾根を下りていくと滝下に着地した。
ロープの必要もなかったし念のために仕込んでおいたクライミングシューズも使わずに、登山靴のままに問題なく辿り着けた。
滝下から見上げる。ちょうど青空が迎えてくれた。 なんと、なんと奥行きのある滝なんだ。これほど壮大な滝があるとは驚きだ。
ここから、恐怖心やら緊張感が解けていき、フツフツと感動が込み上げて来る。 ああああ、大声出ちゃうぞ。自然と漏れてしまうよー。 イヤァァァァッフー!
凄いぞ、凄いぞ! グンマー最高だぁ! 俺は来たぞ! ずっと憧れていた滝の真下へ来れたぞぉ! マンマミーア! ハイホー! イヨッショァァァアア! スト2のキャラクター、ディージェイが使う必殺技「マシンガンアッパー」のように拳を高々と突き上げる。
とんでもなく遠くから僕らに向かって流れ落ちてくる多段の滝。白く穏やかな流水は美しすぎる。
最下段はそれ程大きくはないので威力ある飛沫ではないが、圧倒的な空間に包まれながら、優しい飛沫を両手広げて一杯に受け止める。とろけちゃいそうなくらい、気持ち良〜い。
急いでザックからカメラを取り出して、バシバシとシャッターを切る。保存された写真を確認する。映像の滝の美しさに「すげぇ・・・」と声を漏らす。興奮しすぎて震えてしまった(西野カナではない)。それに息切れもしていました。
写真を撮り終えて、滝を見ながら感動の余韻を味わっていると、ふと「HUNTER×HUNTER」のネテロ会長の台詞が浮かんできて、自分に置き換えてみる。
『そんなんじゃねェだろ! オレが求めていた滝の極みは 敗色濃い滝にこそ 全霊をもって挑む事!
感謝するぜ、お前と出会えたこれまでの全てに!!』
マジでここに来させてくれたグンマーに感謝。感動をありがとう。
憧れていた右俣大滝は、想像以上に素晴らしい世界でした。
・・・で、これで滝巡りを終えて、ヘリコプターででも帰れればどれだけ良いか。
周囲には人の存在は皆無。原住民もいない。
己が歩かない限り、絶対に家には帰れない秘境グンマー。
滝下アタックを決めた時点で、山中で夜になるのは覚悟しました。それでも明るい内に中間尾根を登り稜線に出たいとは思っています。
なんだかんだ一時間以上は滝前で過ごし(もっと長居したかったけど)、14時になっていた。 さあ戻ろう。下りでもしんどかった中間尾根の登りはもっと辛いだろう。
ログを見て頂ければ分かるけれど、帰りは中間尾根に向かって直登した。登れるけれど、下るのは危うい。そんな斜面は滝付近も同様で、トラバースして時間を消費するなら、行けそうだから登ってしまえと進んだら見事に中間尾根に戻れた。かと言って、上がった所から滝を見るとただの崖にしか見えない。故にアプローチは一目で二滝見える地点から下りるのが無難でしょうね。
7時間以上活動している体には十分な疲労が溜まっている。左右共に崖、転倒すなわち死、という緊張感も疲労の一因となっている。
遠くまで見渡せる景色は素晴らしい。目指す稜線もよく見えるけど、絶望的に遠い。あそこまで辿り着けるのか不安になる。それに、稜線に出てもゴールではないのが憂鬱になる。
ロープを残置した為に露岩の急斜面はスムーズに乗り越えられた。密集した藪は登りの方が障害が強く変に筋肉を使って足がつりそうになる。喉が乾き、休憩の回数が増えていく。でも滝壺で水をガブ飲み出来て、ペットボトルに補給出来たのは幸いだった。
およそ3時間30分かけて稜線まで戻って来れた。時は17時30分。もうすぐ日没になるだろうが、中間尾根という難所を明るい内に登れてホッとしたものだ。
来た道を戻るだけ。道は無けれども稜線から離れなければ良い。相変わらず笹薮がうるさく歩みは牛歩の如く遅い。
コルの枯れた池で休憩。ここだけは笹がないので落ち着ける。この辺りで完全に陽が落ちて月が確認できた。月明かりはとてもありがたく、朧だけど全体が見渡せるのは安心できる。
しかし、それも束の間で、新潟県側から雲が上がってきて視界を隠す。同時に冷気も入ってきて日中の暖かさが嘘のように凍えてくる。時間が過ぎるほどに気温は下がるだろう。ツェルト・寝袋に入れなければ凍死は必然に思える。死が背後から追って来ていると認識すると、休んでいるのが怖くなり休憩もおろそかに歩き始める。
ヘッドライトで照らして見えるのは目の前の笹と、白い霧の世界。
稜線を登れば良いだけだが、ここからは背丈よりも高い笹との格闘。ここが本当にしんどかった。
もう笹を掻き分ける力はあまり残っていない。霧で前方が見渡せないので、どこが山頂か掴めず、無限に笹が続いてるような変な感覚に陥る。分け入っていると足に乗った笹に滑って転倒してしまう。何もかも放り出してそのまま倒れていれば良いのに。そんな声が聞こえたような気がする。視界が全く利かない状況にパニックになりそうだが、GPSの現在地点を常にチェックして、あと200・・150・・と呟きながら冷静を保つ。
山頂に到着。あとは沼まで下るだけだ。疲労もさることながら、精神面がきつい。
ゆっくりと笹を押し分けながら下っていくと、ヘッドライトに黄色い人工物が映し出された。極限状態になると幻を見るようになると言われているから、本当に帰ってこれたのか半信半疑のまま、フラフラと黄色を目指していく。
沼が見えた。幻覚ではなかった。生きて帰って来れたのだなと実感。死の恐怖から免れた事を心から喜んだ。
ツェルトの中は朝のまま、盗まれている物は何一つなかった。早々にバーナーでお湯を作ってラーメンをすする。とても怖かったという思いと、素晴らしい滝だったという感動が交錯する。本当に長い一日でした。
9月22日
早朝はとんでもなく寒く、体を震わせて目覚める事が何度か。自分の持つ春〜秋用の寝袋では耐えられない寒さでした。
3日目も快晴。雨にやられる事がなかったのは本当に幸いだ。一日でも雨に降られていればもっと過酷な滝巡りになっただろうと想像すると怖くなる。
今日は十字峡まで下山するだけだ。しかしこの二日間の疲労はとんでもなく、すぐに息が切れて思う通りに進まず、きついきつい下りでした。
十字峡登山センターに戻ってきて愛車イオ君に挨拶。寂しかったろうね、ただいま。
温泉に入ってから六日町の定食屋でラーメンとカツ丼を注文。なんという旨さ。ビックリする程の感動。
ん? この感動を味わったことがあるぞ。そうだ、海外旅行から日本に戻ってきた時の、最初の食事と同じ感動なんだ。
3日間、山に篭るのは海外旅行と同じ感覚になるのだと初めて知りました。秘境の地グンマー帝国だからこそ海外旅行と同義なのかも知れない。
9月20日
7:10 十字峡登山センター 出発
9:00 中尾ツルネ 起点
12:40 仙の滝 遠望
15:50 本谷山 麓の沼 到着
9月21日
6:40 麓の沼 出発
7:00 本谷山 山頂
9:00 中間尾根 起点
11:50 遠望地点
12:50 右俣大滝 滝下
14:00 登り返し
17:30 中間尾根 起点
20:00 本谷山 山頂
20:30 麓の沼 到着
9月22日
9:00 麓の沼 出発
11:10 仙の滝 遠望
14:00 中尾ツルネ 起点
15:50 十字峡登山センター
※(沢ヤさんとの記録に比べ、物凄く遅い歩みです。沢ヤさんが凄すぎるのか、自分がヘタレなのか、まぁ後者なんでしょうね)
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他写真 |
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訪問日 |
2015/09/21 |