一ノ瀬川 支流 境谷
すだれの滝


所在地
宮ア県西米良村

地理院地図 (←クリックすると国土地理院のHPにて位置を確認できます)
評価(5段階) ★★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆◆
現地へ 市房山の東面。国道265号を進み境谷の付近に駐車。一ツ瀬川を渡り境谷を沢登り。
訪問日 2021年6月28日

神仏の滝からの続きです。

さあ、更に上流にある「すだれの滝」を目指します。

この巨瀑をどうやって巻くか。左右どちらとも記録があります。そして、この高巻きが境谷の肝らしいです。
神と仏を越えていくのですから、それはもう大変なのでしょう。

見た感じ高巻きしやすそうだなと思ったのは左岸で、そちらに取り付いてみました。
25m斜瀑と同様に、岩盤が立ちふさがっているので、まずはそれを横目にしつつ登りやすい斜面を軽快に進みます。

既に滝は見えないけれど、そろそろ落ち口辺りの高さに来たんじゃないかなと思った矢先、手の着けられない岩盤は難易度を下げてくれてトラバースの開始。

勿論、逆層ではあるので緊張感は常にマックスですが歩きやすい所を選んで進みました。
するとスムーズに落ち口に到着。拍子抜けな感じで円滑に高巻きを終えました。


落ち口を近くから見るために左岸から右岸へ渡ろうとした時、水深は浅いと判断し足を入れると想像よりも深くて前のめりになってしまった。
倒れる事無く修正出来たのでホッとしたけれど、落ち口付近はウォータースライダーの如く掴み所のない岩盤だったので、もし滑り始めたら落ち口からあっさり放出されただろうと想像すると、肝が冷えました。

めちゃ高鳴っている心臓を落ち着かせて、改めて谷を遡り始めるとすぐに滝が現れる。これでいくつ目の小滝なのやら数えてないや。


中間くらいで現れた10m級の直瀑。高い岩盤を従えていて当然ながら直登なんか無理。


どっちで巻くかな、記録を見ると左岸だなと斜面を上がっていく。
神仏の滝を巻いた時のように岩盤の上に乗りたいのだけど、どこまでいっても壁は隙が無さ過ぎて困った。

息を切らしながら100m位は標高を上げたと思う。10m滝を越えるのに100はさすがに上がりすぎと分かっているけど、その辺りでようやくスムーズに岩盤を越えられた。
ここには体力がとても消費されました。

巻き終わってすぐに谷まで下る気にはなれず、そのままトラバースを続けて谷が自然と上がってくるのを待ちました。
神仏の滝を越えてからは、沢登りというより山斜面の移動ばかり。滝を登ったりする谷を楽しむ実力がなくても高巻きで前進出来るのはこの谷の良い所です。
左岸のトラバースをずっと続けて、新たに越えられない岩壁が現れて谷に戻らされたけど、相変わらず遡行出来るような優しさはないので、今度は右岸で高巻き。


水と触れ合わず、道無き斜面を歩き続けるなんて逃げまくっているようで恥ずかしくなるけど、自分の実力では遡れないのですから、とにかく安全第一です。

流れる水が見えなくなるくらい高く上がらされながら、なんとか下りられそうな斜面を選んで谷に戻ると、はるか前方に広い空間が見えました。


狭く急峻な谷は、大きな滝が現れると観瀑用のステージを設けてくれる。

すだれの滝に到着しました。

迫力、威力は神仏の滝と同様。
打ちつけられて跳ね上がった水飛沫の白煙が、濃厚に放出されています。
面白いのはそのデザインよ。中腹で折れて広がっている水の姿。


ペンギンの翼のようでとても可愛い。

「自分、不器用ですから」とか言っちゃうような一本気の直瀑が、右腕にペンギンの人形を抱いている感じかな。
迫力と可愛さのギャップが激しくてどう接すれば良いか戸惑いを隠せない。
「す、素敵なペンギンですね!」
勇気を持って話しかけると、人形を抱える腕の筋肉がピクッと動いたと共に、すだれの滝はちょっと頬を赤らめた。
目を合わせてはくれないけど、拒絶はされていないようなので一安心。
本当に面白い滝だ。境谷は険悪だけど愛嬌ありますね。

不器用で一言も発さないのに、とても優しくてユニーク。
魔女の宅急便に出てくるパン屋のオソノさんのご主人みたいでした。

相も変わらず雨が降り続いている。
高巻いているときは木や葉が雨を凌いでくれたけど、滝前はめっちゃ開けています。
容赦なく打ち付けてくる雨はやはりしんどいです。

青空で、虹を見ながら飛沫を受け止めたかった。その希望は叶えられなかったけど、この滝まで来れて満足です。

またここに来る機会を設けたいですね。
でも他にも行きたい滝あるし、年を重ねると行けなそうな谷だから無理な気がします。

「山は逃げない」「滝は逃げない」
なんて格言らしきものがあるけれど、逃げられますよ。

災害で滝が崩れたり、その近辺に行けなくなったりする。霧で姿が見えない時もある。増水、枯渇、満足いく姿で見れない時もある。挙句の果ては人間が滝を破壊して二度と逢えなくなる時もある。
自分自身が健康であり、衣食住が充足しているからこそ九州に来れている。家族も(しぶしぶ)理解してくれている。
願っても叶わない事ばかりの人生。その中で願って叶った滝との逢瀬。
雨だからなんだ。素晴らしい滝と対峙出来た、それだけで感謝です。逃げずに逢ってくれて有り難う。

さあ、安全に車に戻ろう。
そう気合いを入れてヘルメットを被る。

帰路の歩みははっきり言ってめちゃくちゃです。何にも参考にならないと思います。

10m滝の左岸大高巻きはやりたくなかったから、あえて右岸側で巻こうとしてみた。
そうしたら下りれそうな雰囲気がなく、仕方なく右岸をトラバースしていたら谷がドンドン遠ざかってしまった。
谷から離れる程に、谷へ下る気持ちも無くなってしまった。


気付いたら炭釜跡が見つかって、太めの踏み跡も見つかって、楽な方へと歩んでいたら、境谷の右岸にある尾根に出てしまった。
尾根はさすが踏み跡は明確。気さくに歩き、途中から境谷出合へと伸びる尾根に乗り無事に出合に到着。

雨の割には増水していない一ノ瀬川を飛び石で渡る。
戻ってきたのはお昼過ぎ。5時間と短い滝巡りでしたが、精神・肉体ともにゴリゴリに削られて疲労困ぱい。濃厚、濃密な谷でした。

さて、これで気軽に終われれば良いのだけど、生憎この界隈にはお土産がもれなくついてくる。
靴を脱ぐと、ヒルが現れる。ズボンにも元気な奴が張りついている。

数えると9匹かな。なかなか大量です。

どうもどうもヒルさんこんにちは。そして、さようなら。

そう言って虫除けスプレーをヒルに浴びせる。特に足首から我が血を吸っている二匹と、首筋から吸血した輩には憎たらしさ全開に何度も吹きかけてやった。

ヒルには塩やら、タバコの火が良いとか言われますが、虫除けスプレーが一番楽チン。吹きかければキュ〜とすぐにちっちゃくなって動かなくなります。

ヒルの災難が去り、改めて周りを見渡す。

市房山東面。良い滝をたくさん用意してくれている素晴らしい地。
私のような未熟者では谷の全てを楽しめはしないけど、十分に満足させて頂きました。
次はニタノオ谷かな。またこの近辺に来たときは、どうせ雨が降ってる中で滝巡りにするんだろうな。


7:05 出発
7:55 25m斜瀑
8:35 神仏の滝
8:55 出発
9:10 神仏の滝 落ち口
10:20 すだれの滝
10:55 出発
12:50 車 到着



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