早川 支流 楠木沢右俣
時雨の滝




所在地
山梨県早川町

地理院地図 (←クリックすると国土地理院のHPにて位置を確認できます)
評価(5段階) ★★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆◆(上段)
◆◆◆(下段)
現地へ 早川の青崖トンネルの東部。早川の左岸を下り、楠木沢の巡視路を進むと滝前に。1時間以内。
訪問日 2020年10月7日
2020年10月7日

会心の一撃です。スッパリ巨瀑。
誰が見てもデカいと分かる落差、幅。
一週間ほど雨が降ってなかったので水量にはやや欠けるものがありますが、そんなの気にならない威力。
スパッと切って、なにが起きたか分からず固まって、徐々に亀裂が入っていき、ずり落ちる。それくらい見事な切れ味、まさしく会心の一撃でしたよ。

午前中は南部町の滝を楽しんで、お昼には登山体系に記載されているチョウシノ滝を探索。大城川本谷にあるようだけど、堰堤だらけでさっぱり分からず。もしかしたら堰堤工事で潰れちゃったのかなと諦めて移動。

そして着いたのが早川町の奥地。
楠木沢。ここに見事な滝があります。

現地に到着したのは14時頃。パラパラ雨が降っているのでテンションは落ちてるけど、せっかく来たのだからと気合を入れます。天気予報では18時くらいまで持つように書かれていたけど外れちゃいましたね。
ちなみに雨が降ってしまうと、道中の写真を撮る気持ちの余裕がなくなってしまうので、今回写真はとても少なくなっています。

青崖トンネルを北上して、抜けた辺りで車を停めたいのだけど、工事中のトラックを誘導する業務の方の車が止まっていて空きがない。
仕方ないので琴路の滝が遠望出来るちょっと広いスペースに止めました。
平日は工事のトラックだらけで大変です。

カッパを着込んで歩き始め。まずは青崖トンネルに向かうように、車で走って来た道を歩きます。歩道がある訳ではない二車線の道を歩くのは怖いです。

青崖トンネルが見えてきて、早川を跨ぐ橋の手前から階段で早川に下りられるようになっています。


澄んだ綺麗な早川を右手に見ながら濡れないように早川左岸を進んでいき、空を見上げると朽ちた吊り橋が掛かっているのが確認出来ます。
吊り橋の下を通って、そこから斜面を登っていくと(残置ロープ有)吊り橋の起点に着きました。


吊り橋は渡らず、ここからは巡視路の階段を利用して高度を上げていきます。急斜面に設けられた階段なので息切れ激しいです。
カッパを着ていると発汗量が倍くらいになりますよね。垂れた汗が眼鏡の内側に着くとメチャクチャうざいです。


この看板が見えたら登りはおしまい。あとは楠木沢に向けて水平移動になる

楠木沢渓谷の綺麗な看板の案内が出てきたら登りは終了。ここからは手擦り付きの道を水平移動。遊歩道って感じで楽です。

一箇所だけ崩落地があって、それをやり過ごすのにはやや緊張しますが、補助がしっかりされていますので慎重に進めば大丈夫です。

アーチ状の水路橋を見ながらそのまま歩道を進んでいくと、コンクリの橋が出てきて対岸に渡り、更に進むと時雨の滝に到着です。出発から35分程で到着しました。


見えている滝は下段20〜30m位の滝かな。あまり力強さを感じません。

早速、メインである上段を見るために右岸ガレ場を登っていきました。

上段が見えた時、ビックリしました。すっげー大きい! 迫力ありあり。行かなきゃ分からない存在感の強さ。ひっそりと佇んでいる割に、隠しきれていないパワーが伝わってきます。

写真を見てる限り、線が細いからそこまで魅力ないかなとちょっと否定的に考えていましたが、現地で実際に肌で感じたら圧倒されました。

これは、なんとかお近づきになりたいぞ。

雨降っているから、写真撮影はそこそこに上段接近に取り掛かります。

右岸ガレ場から左岸を見下ろす。下流は崩落地の跡。樹林帯があるのでそれらの木々を利用すれば良いのではと感じましたが、殆ど崖と思える急斜面には引くものがあります。

ま、せっかく右岸のガレ場にいるのだから、右岸から高巻きの挑戦をしてみようと目に見える岩壁に近づきました。
掴みどころはないし、逆層で足の乗り場も見当たらない岩壁を目の当たりにし、越える気にはなれません。
ガレ場を登っても登っても変化なし。

だったら仕方ない。その岩壁を大きく巻いてしまおうと更に上に。獣道が見えてきて、ここから行けそうだと滝の方向へトラバースを開始。

滝が見えてきた辺りで下り難い急斜面が出てきたので、ここでロープを出しました。


そして滝の真横に到着。中間付近に出てきました。
ここから滝下へ行きたいのですが、先はただの崖で見事な岩壁の上に着いただけでした。
右岸からの上段へ向かうのはまず無理。


雨に濡れながら必死こいてここまで来たのに無念でなりません。

この時点で15時40分。今日の日没は17時20分くらい。明るい内に帰るのが安全ですから、止む無く下山を決めて登って来た獣道を戻りました。

ガレ場に戻って、再び上段を遠望。

16時20分。左岸に接近、見上げる。
滝横はハングした岩壁なので登れないが、その岩壁の上に乗れれば上段に行けるのではないかと見積もってみる。

取付きは左岸のガレ場になるのかな。往きに歩いてきた手すりのある巡視路の終点からちょうど対岸にある斜面から上がっていきました。

ガチの急斜面。所々に生えている木をしっかり掴んでトラバース。ストンと切れ落ちている箇所もあれば、木々がなく掴むものがない斜面をバランス勝負で横切る所もあり、かなり気合が必要でした。

ここなら進める。ダメだこの先は越えられない。ならこの木は? 腐ってて頼れない。ちょっと戻ったらどうだろう? あそこの木を掴めれば進める。行ける? 怖いけど行けそうだよ。

こんな感じで自分で自分に話しかけながら恐怖を払拭して、勇気を奮い立たせつつ、ジリジリと下段の落ち口に近づいて行きました。

行けるのか? という恐怖と不安。
行けるのか!? という好奇と期待が折り重なる複雑な心境。


そして最後、緩やかな岩盤を木の根を頼りに越えると、奥に上段の滝が見えました。
16時45分、およそ25分の高巻きでした。

崖と崩落地に取り囲まれた危うい環境とは裏腹に、上段の巨大な滝の前は、遠くからでは想像出来なかった静穏さ。
穏やかな平面を作ってくれている滝前、滝を見ながらゆっくり寛げる空間になっているとは嬉しい誤算。

もしかして履いてないんじゃないか? そうドキドキしたけど、「履いてますよ!」とパンツを指差してくれた安村さんと同じくらいホッとした。

もう危うい所はないんだね? 楽しんでいいんだね? 放送事故にはならないんだね? そう尋ねると「安心して下さい!」と滝は言ってくれた。

ザックと緊張感をドカッと置いて、滝前に向かう。


水量については、やはりもう少し欲しい。しかしどうだこの横幅、優に10m以上に広がっているぞ。

肌に刺さる滝の存在感は巨瀑ならでは。
ゆっくり滝の流れを確認しながら見上げていくと顎は天に向けて突き上がっていた。そこまで見上げないと落ち口が見えないなんて久しぶりだ。
100はないと思うけど、80mはあるんじゃないかな。十分すぎる落差です。

横幅、高さ、周囲の人を寄せ付けぬ岩盤の拒絶感、どれもが迫力満載。

巨瀑、間違いなく巨瀑です。

ドキがムネムネしてしまう興奮が内から外に溢れ出てきて、気付けば咆哮。一人なのに絶叫。
上段の広場の中心で(滝への)愛を叫んだけもの。

しかし無情にもその快感の衝動を抑え込む二つの制動に襲われる。

雨。
カメラを構えてレンズを向けると水滴が容赦なく写り込む。拭いて撮る、拭いて撮る。殆ど失敗。数打ちゃ当たるの精神でシャッターを切りまくるがろくな写真は撮れなかった。これについては痛恨の一撃だ。

そして時間。
こちらの方が大いに問題だ。絶対に無視は出来ない。明るい内に帰るのが安全だけど、はっきり言って既に明るくない。

まだ大丈夫、そう言い聞かせながらチラチラ時計を見ながら滝と対峙する。
時間を無視して滝を楽しみたいが、出来る状況ではない点が辛かった。

17時。滝前の開けた空間すら色を失い始めた。
これはもうさすがに撤収しないとヤバい。そう焦りが出て慌てて片付けを始める。
たった15分しか滞在できないとは残念でならない。

ありがとう、また来るね。今度は虹を見せて下さい。

そう頭を下げて上段の滝に別れを告げる。

高巻いた斜面は何とか明るい内に下りたいと考えていた。
しかし、いざその樹林の多い左岸の斜面に取り付くと、既に暗かったorz

滝前が暗くなり始めたのだから、樹林の中はもっと暗いに決まってる。

幸か不幸か、よく見えない故に高さの恐怖はやや薄れた。
かと言って滑落の不安があるのは確かで、見えない中でのトラバースなんぞ危うすぎる。

上段の落ち口を目指す時点で、懸垂下降で帰ろうと思っていたのでロープを出す。
見えない中での道具のセット、完全な闇夜になる前に脱出したいという焦りで手元がおぼつかない。
とにかく道具を落とさないように気を遣った。

20分ほど格闘し樹林の下降を終えて、下段の開けた場所に出ると、まだちょっと光が見えたので落ち着いてロープを片付ける。

手摺りのある巡視路に乗って一安心。これで迷う心配もなかろう。
かと言って闇下山は想定しておらず、滝まで適当に歩いてきたからちゃんと戻れるか不安ではある。

17時20分、日没。ほぼ真っ暗。一人で暗闇の山は怖え。

吊り橋を下りて、早川左岸を歩き、道路の明るい橋が見えて一安心。

車に戻ったのは17時55分。

工事の人も誰もいない寂しい道路の脇で、乾いた服に着替えて心身共に落ち着いた。

帰り、コンビニでコーラを買って祝杯を上げる。喉を通る炭酸はいつもより爽快感がありました。


14:15 琴路の滝 展望地の路肩 出発
14:35 吊り橋
14:50 下段 到着
15:40 上段 右岸から接近(滝下に行けず)
16:20 再び下段前 左岸から高巻きを試みる
16:45 上段 到着
17:00 出発
17:55 車 到着

2021年9月8日

楠木沢左俣 第二大滝からの続きです。敗退記録なので何の参考にもなりませんが。

ここから、何の記録も出てこない未知の領域を進みます。
目的は右俣にある時雨の滝です。

昨年は上段の巨大瀑布に感動させられました。そこにもう一度行きたいのですが、同じ道を辿るのも面白く無いので、落ち口を見てから左岸を下って滝前を目指そうと思いました。

中間尾根から下山路には向かわず、そのままトラバースを進めていきます。この辺りは緩やかな斜面で口笛吹きつつ進めます。

細い尾根が出て、これを通過。この辺りから右俣の枝沢が見えてくるので、下りやすそうな斜面を選んで進み、枝沢に着水。


ここからは水が流れるままに私も下って行きます。

左から枝沢が合流、更に下流でもう一本。枝沢が合体していく事で水流を太くしていきます。

進む程に右も左も岩壁を持ち上げていき、光が届かない暗い空間になっていきます。

5m程の小滝が二つ。これを右岸から巻いて下ると、時雨の滝の落ち口に到着です。


朝に見た水路橋が見えますし、時雨の滝の撮影ポイントである左岸の茶色いガレ場も見えます。

ここから水は100m程を一気に落っこちて拡散するのか。いやぁ怖い。足が竦む。怖さで下腹部が掴まれた気分になる。

左岸からの巻き下りの起点を探します。ちなみに右岸側は崖しかないのは昨年の冒険で分かっているので左岸一択です。

左岸を進みたくても、落ち口からでは崖が立ちはだかっているので無理です。

上流へ戻り左岸崖を見上げながら進みます。
小滝の手前、急斜面ながらガレ場になっているので、そこから取り付いて崖の上を目指します。


太い木、木の根に助けられてグングン高度を上げていきます。登れるけれど下るのは危うい、そんな斜面では一息つくのも怖いので、とにかく登り続けました。

50mくらいは一気に上がったでしょうか。ようやく斜度が落ち着いてきました。

落ち口方向へ舵を切ってトラバースしていくと小尾根に出ました。

その先を見ると落ち口へと向かっていたので、ここの小尾根は使えず、更に離れるように南に向かいます。

下りられそうな斜面がないか探りながら移動していきます。

全体を見渡すと、踏み跡も獣道すら全く見当たらない斜面です。ここは本当に誰も踏み入れて無いのでしょう。

沢登りで人と会う事は少ないですが、踏み跡があったりでなんだかんだ人の残り香は漂っているもので、それに安心感を得られる時が多々あります。

しかし、この時雨の滝の左岸面は本当に何もない。獣の跡もない、完全に誰もいない地。
水から離れたので、水の音もなく静止された斜面。無の空間のようで不気味過ぎる。

ここで怪我したら誰も見つけてくれないだろうと恐ろしい考えが出てきました。今まで、そんなネガティブになる事は無かったので何かとても嫌な雰囲気になってしまった。

悪い予感がする。この先に進んでも大丈夫か、心配になりました。

トラバースを続けていくと、崖ではなく、急斜面に変わりました。ここなら何とか下りられるか。

支点となる木を掴んで岩に乗った瞬間、岩があっさり崩れました。慌てて木にしがみついて回避。崩れるような岩に見えなかったので動揺が半端ない。

なんか本当に危ないな。ホラー映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の森に迷い込んだような気がする。

下部に見えるのは崖。右下に2m移動すれば下りれそうな斜面になるし木もある。

先程の崩れの恐怖がまだ残っている状態なので、7mのお助け紐を出す。
たった2m移動するだけだから、まだ懸垂下降をするまでもない。ロープを掴んでバランスを取れば通過出来ると踏んだ。

ただロープを掴むのではなく、右手首にグルッと一巻きさせて摩擦を強くして滑らないようにする。

しっかりロープを握って右へ移動を試みた途端、両足の岩が崩れた。

足は置き場所を失い、体はズンと滑り始める。

まだ冷静さは保っている。大丈夫、ロープを握っていれば落ちる事はない。

その後に耳にしたのはシュルルルという恐ろしい音。ロープが滑っている。しっかり掴んでいるはずだが、ロープは手袋と手首をすり抜けていく。

滑った体を支え切れない。
ウソ? すべ? ヤバいヤバい! 抜けた!

ロープから離れた体は地面を滑り落ちていく。

スピードが上がっている気がする。
抜けた手はとにかく何かを掴もうと、もがいたと思う。
目の前に倒木が見えて、それに腕を絡ませたら、体は止まってくれた。

視界が静止している。呼吸が出来た。

掴んだ倒木は腐っており、徐々に動き始めた。

手を伸ばすと岩の凹凸に引っ掛かった。どうやったのか記憶にないが、斜面をズリズリ登り、垂れ下がっているロープを掴み、支点になっている木まで戻れた。

心臓の鼓動がやかましい。体が熱い。

落ち着け落ち着け、今は動くな。自分に言い聞かせた。

倒木を見ると5m位は下にあるだろうか。そこまで滑っていった訳で、その先にある崖に吸い込まれていたら怪我では済まなかっただろう。

手首が熱い。ロープの摩擦で火傷している。でもそれ以外は問題なく、行動には何も支障はない。

ハーネスを取り出して装備した。もう木を掴んだりロープを持っての下降は出来ない。

とにかくここまで来たら滝を目指して下降するしかないのだから、懸垂下降でこれ以上の滑落を阻止する。

二回、下降をした。しかし滝の姿は見えない。分かるのは下が見えない崖があるって事だけ。

右側は枝沢が滝となって崖から落ちている。そんな所行ける訳ないから、左手にトラバース。

そしてその先にあったのは岩壁。掴むものが何もない壁面。

試しに進んで見る。小石が乗るジャリジャリの斜面。下は見えない。何m崖になっているか想像が出来ない。

もしここで先ほどの滑落があったら、今度こそ宙を舞うだろう。
支点となれる木はない。
絶対に無理は出来ない。
ここで時雨の滝へのアプローチはギブアップ。

元に戻って深呼吸。下りられない、左右にも動けない。行けるのは上だけ。

ロープで下りて来た所を戻るって、進退窮まったみたいで絶望感に覆われた。

膝に力が入らない、諦めて座りたくなる。

「ぜってー家に帰る!」
自分に言い聞かせる為に叫んだ。

ロープと道具で直滑降に下りてきた斜面は、枝沢側に向かうと緩やかに登り返せた。
強引に登ってきた楠木沢右俣の左岸斜面では、滑落の恐れがあるので、3回懸垂下降をして沢に戻れた。
あとは歩いてきたルートをトレースしつつ、戻っていく。

中間尾根まで戻れた時は、生還出来た事に心底ホッとした。


そのまま下って行って、左俣の沢に戻れたら後は危険な所はない。


日没までに車に戻れた。

もうダメかも、って達観した滝巡りは久しぶり。こんな感情に襲われないよう安全に冒険しなきゃですね。
「安全」と「冒険」、矛盾しているような言葉だけど、それを両立してこそ楽しい滝巡りです。

はぁ怖かった。


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