千仞滝

Data 所在地 白山市
評価(5段階) ★★★★★
難易度(5段階) ◆◆◆◆
現地へ 白山の南西面。市之瀬ビジターセンターの大きな駐車場に停め、白山釈迦岳に向かう登山道・林道を辿り、湯の谷沿いの林道を進む。千才谷の堰堤から入渓し滝前に。徒歩4〜5時間。
コメント

長い道のりでした。それに尽きます。

この滝の奮闘は前々日から始まります。
8月10日、北陸入り。11日にアタックしようと森本さんと計画し車を走らせました。
気になる天気予報。10日は北陸に台風上陸ですって。その予報通りに北陸に近づく程に雨風が強くなっていく。
立ち寄った百選の「阿弥陀ヶ滝」では川沿いの遊歩道が川になっていて(しかも膝上までの深さ)滝下には行けなかったのが悔しい。
ろくに滝が見れずに夕方になり、予定してた日帰り温泉に到着し森本さんと合流。台風の日に訪れる人は少なく、とっても優雅に入浴させて貰った。
さてここから道の駅「九頭竜」に目指す。そこで車中泊してから深夜に出発し、白山登山への起点となる「市ノ瀬ビジターセンター」の駐車場に向かう予定。
とりあえずここまでは台風の影響で滝が満足に見れなかったものの一応予定通りに走行できた。
予定が狂い、長い道のりになるのはここからです。
ちなみに市ノ瀬ビジターセンターは白山のピークである御前峰を時計の指針軸に見立てると8時の方角(南西)にあります。
今向かっている道の駅「九頭竜」は方角で言うと7時。なので車中泊してから7時から8時までおよそ72キロ走行して市ノ瀬に到着するようになります。
現在、日帰り温泉を利用した場所は5時の方角。20キロほど走れば九頭竜に到着して、早めの就寝が出来るだろうと思っていました。
思っていたし、あとは歯磨きするだけかと気持ち的にも睡眠モードに切り替え始めていて運転中にあくびを連発する始末。
そんな矢先、国道158号を6時の方向まで真西に走行していると目の前で赤い誘導棒が振られているではないか。そしてその先には屈強なゲートが道を塞いでいる。
先行で走っていた森本さんに話を聞くと、この先で土砂崩れがあって通行止めだと、迂回してくれとの事。
九頭竜に向かう道はこれ一本。つまり7時の方角に簡単に行けなくなったって事です。
さてどうしよう。迂回して九頭竜へ行くにしても一旦名古屋辺りまで南下してからじゃないと向かえないぞ。
途方もない距離を走らされるなら、10時の方角にある道の駅「瀬女」を目指した方が明日の市ノ瀬に向かうのは近くなる。じゃあそうしようとナビにセット。
でました目標250キロです。6時から反時計周りに富山経由で10時を目指すんだ。そりゃそれだけ距離があるのは分かるけど、20キロが250キロになるのは精神的にきついです。ガソリン、高速代も掛かるから財布も泣いてます。せめて白山スーパー林道が使えればショートカットになったのだけど、夜間通行止めが恨めしい。
それでも頑張って6時から迂回して、東海北陸道で日本海の近くまで行って金沢市を経由して、22時頃に道の駅「瀬女」に到着。よくも寝ないで走ってこれたもんだ。
おやすみなさいして8月11日の3時に起床。睡眠不足だけれども、市ノ瀬を目指しますよと県道33号を走っていると、またも立ちはだかる屈強なゲート。
今度は何だ? と森本さんに再び聞くと、この先で倒木があって通行止めだと。市ノ瀬に向かう道はこの一本だけなんですけど。
台風の影響をモロに喰らってます。天災は仕方ないですが、自分の雨男っぷりにやや怒りを感じます。
11日、この日は結局歩き始めることすら出来ず、お気楽の滝巡りに変更。雨に打たれながら豪雨の水を大量に落とす滝は物凄い迫力になっていましたが、1日を無駄にした感は拭えません。
次の日も天気予報では雨。こうなれば雨なんて関係なしに行くっきゃないと心に決めて、前日と同じ道の駅「瀬女」で車中泊をしました。

前置きがとても長くなりました。関係ない話をごめんなさい。ここからが当日の滝巡りです。

さて12日。目覚めると空には月が出ていた。天気予報が外れたのは嬉しい結果だ。二つの意味で「ツキ」がある。ちょっと上手いことを言ってみたネヅッチです。
市ノ瀬までの倒木は撤去され、無事に駐車場に到着。
本来は山泊予定でしたが、荷物を軽くして日帰りの強行軍で出発です。
そう言いつつも夏の暑さで喉が乾くのは怖いので水を3リットル入れて、沢靴セットもザックに詰め込んで、なんだかんだ「ヨッコラショ」と言わなければ背負えない位ザックは重くなっています。
この滝を目指すには、これまた長い道のりなんです。
果てしなく長い林道を歩き続けなければなりません。その距離およそ10キロ。林道歩きは散々してきましたが、多分最長ではなかろうか。
車で行ければどれだけ楽かと林道の起点を確認しましたが、案の定その道は工事用で一般車は進入禁止。ご丁寧にゴツい鍵が掛かっています。
自転車を持ち込むのは可能かも知れませんが、その林道で高低差600メートルほど上がらないといけないのできついです。下りは楽でしょうけれど。
というわけで歩くしかないんです。
市ノ瀬から別当に向かうアスファルトの一般道を歩き、釈迦岳に向かう登山道を進み、林道をただひたすら歩く。
出発は4時。ヘッドライトを装着して歩き始め、湯の谷を渡る橋付近で空は明るくなりました。
そして林道と白山釈迦岳の分岐でベンチがあったので休憩。
この手前で水飲み場がありました。冷たくてまろやかな水で美味しいです。空のペットボトルさえ用意しておけば事足りましたね。この先の林道でも綺麗な水は流れまくってましたので、3リットルもいらんかったなと節水を気にせず好きなたけ持参した水を飲み始めました。
眺望抜群で飽きはしない景観が広がっている。特に対岸に見える指尾山の天井壁の威圧感は半端ない。と、その絶壁を見ていると太いロープが何本も垂れ下がっているではないか。あんな崖上のルートなんかある訳ないし、何故ロープがあるのか不思議でならなかった。
林道は2回目の九十九折りを迎える。車にとって安全な道なのだが、人にとっては無駄な距離を歩かされている感がある。直登ルートでもあればいいのに。
延々に続くダラダラとした登り道。市ノ瀬から既に標高差650メートルは上がった事になる。東京で有名な高尾山を越えてます。次に目指すは筑波山か。そう簡単な山の名を上げると苦労してないと思っちゃうのは不思議ですね。
確かに実際、ここまで危険の類は皆無だし、よく整備された砂利道だし、安全ではある。問題なのは距離、6.6キロ歩いているがまだ到着しない長さ。普段、仕事している時なんか1日で1キロも歩かない自分にとっては中々に地獄です。
あとはザックの重さ。量ってはいないけれど水、カメラ、沢靴、ロープと主要 の重い物たけで4〜5キロ、それに食料、雨具、カラビナ、レスキューキットなどを含めて7〜8キロ。そしてザックの自重を入れると約10キロか。登山家にとっては普通でしょう。でも自分は山頂にも釣りにも興味のない滝ヤです。いかに楽に(安全に)滝下へ行けるかしか考えてません。そんな自分にとっては普段の倍以上の重さにヒーヒーですよ。
これで3度目の休憩か。そろそろ湯の谷を渡る橋が見えてくるだろう所でザックを下ろすと、絶景が目に飛び込んできた。
まさか堰堤なんぞに感嘆の声をあげるとは思いませんでした。沢を歩いていれば堰堤なんて犬が棒に当たるくらいよく見るもので関心なんて持ってません。むしろ邪魔としか思っていません。
そんな存在に度肝を抜かされるとは、ホントそれだけ凄い堰堤なんです。なんという美しさ、連続された堰堤のなんという格好良さ。もし日本の堰堤百選が出来たなら、ここは間違いなく選定される。これを見ただけでも、ここまで歩いて来て良かったと思えるくらいです。
スゲースゲーと声を上げながら進む。湯の谷を渡る橋を越えて、カッコいい堰堤を横目に九十九折りを上っていく。
そんな矢先に雨ザーザー降ってきてカッパを着込む。周囲にガスが発生してきて嫌な雰囲気。滝が見れないくらいの濃霧に包まれるなよと心底願います。
ここで車の音が聞こえてビックリ。この先の堰堤工事の作業車だ。運転手も驚いたろう。「どこに行くの?」と言われるのは当然で、更に「釈迦岳と間違えたか?」と聞かれる。
延々と林道を歩いてくる輩はそうそう居ないだろうし、目的が分からないのは当たり前だ。森本さんが千仞滝だと答えてもどうもピンとくる様子はなく走り去っていく。その次に従業員を乗せたマイクロバスが追い抜いていき、好奇な目で見られた。このバスは何時に市ノ瀬を出発したのだろう、僕らは日の出前の4時に出てゼーゼー息切らしながらようやくここまで歩いてきたのに、それを一瞬で抜いていく。ゲートが無ければここまで気楽に来れるのにと羨ましく思う。
やっと目指すべく千仞滝が大きく見えた。上部にガスが漂っているが姿は十分に視認できる。
堰堤を越えて、ゴーロを進めば何とかなるか? ルートを予測する。懸念していたゴルジュも前衛滝も見当たらない。というより左岩壁の崩落で谷が埋まったように見える。
さて、重い水や食料を抜いて軽量化して、靴を沢靴に履き替える。随分と身軽になった。
ではこの置いていく荷物をどうしようか考えていると、近くに大きめの木箱が横転しているのが目に付いた。どうやら工事の看板を立て掛ける支柱だったように見えるが、役目を終えたように倒れている状態は雨除けになってちょうどいい荷物置き場と化していた。工事には使われていないと判断し、有り難くそこに荷物を突っ込んだ。
準備も出来たし出発。まずは堰堤の下流から入渓し、トンネルをくぐる。
先に見える二つの堰堤はどちらも右岸から越えた。驚く事に新しい虎ロープが垂れていた。滝を見にきた者か、はたまた工事の人間か、定かではないがおかげで安全に越えられたのは言うまでもない。
ここからはゴーロだ。滝を目指して一直線に進むだけ。簡単に言うけど、林道から滝まで高低差200mの登りなので結構しんどい。だけど近くなるにつれて雨は弱くなっていきガスも消え始めた。幸先は良い。千仞は僕らを歓迎してくれている。息切れはしてるものの意気揚々と先を見つめ一歩一歩ゆっくりとだがゴーロを越えていく。
右岸をずっと進み、崩落地をやり過ごして滝前に到着。ただひたすらに長い、それだけが苦労を強いられた点で、難所は特になく安全に来れた。
笑顔でハイタッチ。滝に会うのが目的だけど、こうやって森本さんと喜びを共感する為に頑張って来たようにも思える。ボーリングでストライク(もしくはスペア)出した時のハイタッチとは雲泥の差。力強く心地よいパチンとした音が滝前に響いた。
落差は30〜40m。予想より小さいのは上段が見えないからだろう。森林限界を越えた無骨な岩盤に飾られた白布は清純で、近寄りがたい存在に思えていたが、親近感の沸くぬくもりのある滝だった。
壮大な景色の中、思い思いに滝を楽しむ。左から真下から、回り込んで右からと。振り返ると白山釈迦岳が見える。なんとも絶景ではありませんか。
かすかな青空が現れると共に、濃くはないが虹も見れた。一日中雨の予報で、道中では雨に打たれたが、滝前では好条件に仕上がってくれたのは嬉しい誤算だとしか言えない。
そんな至福の時間を余すことなく謳歌する事およそ2時間ほど。そろそろ戻らなければいけない。
ゴーロを降りていくと下からガスが上がってきて一瞬にして視界から景色が消えた。僕らがいる間だけ千仞は姿を見せてくれたのだろうか。
林道まで下りてきた。ここから重い荷物を背負ってまた延々ダラダラ林道を歩くのかと想像するとウンザリする。
木箱を見るとなんか形が変わっていた。箱としての原型はなく、一枚の板となって脇に積み重なっているではないか。もしかしたら今日撤去する予定だったのだろうか。そんな時に荷物を置いてしまい作業員は困惑しただろう。
放り出されても文句は言えないのだが、二枚の板が「入」の形を作り、その中に僕らの荷物が置かれていた。わざわざやってくれたのだろう。
「お頭〜、木箱の中に靴とか水がおいてありやすぜ」
「あぁーん? そんなもん捨てておけ」
「いやぁそれじゃ可哀想だ。せめて雨除けでも作ってやりやしょうよ」
「てめぇらは本当に良い奴だなぁ。気に入った、今日は俺の奢りで飲み行くぞ!」
「ヒャッホイ! 一生ついていきやす!」
こんな話がされたかは定かではないが、迷惑を掛けたし親切を頂いたのは事実。直接会ってお礼を述べたいものたが、そうもいかないので地面に大きく「ありがとう」と書き残した。
帰路、寡黙に歩くだけ。飲み物が減ったので幾分か楽になるかと思いきや、水を吸った沢靴は重く、あまり変わらないような気がする。
歩く道は殆どが下りなので、息切れしないのは救い。それでも疲労は否めない。足の裏がジンジンと痛んでくる。
カッコいい堰堤を楽しむ余裕もなく、ただただ砂利を見つめながら進む。
釈迦岳登山道付近の対岸にある天井壁を見えてくる。そういえばあそこにロープが垂れ下がってたんだよなぁと見ると、人がいるではないか。不安定な岩を落とし、これ以上の崩落を防いでいるのだろうと考えるが、あんな絶壁で命綱張って行う仕事があるのかと、さすがにこれには驚き足を止めてしばらく立ち尽くしてしまった。
その後も足の痛みに耐えつつ無心で歩き、ようやく市ノ瀬に戻ってきた。
ザックを下ろし、靴を脱いでサンダルになったときの開放感はハンパない。
無事に戻ってこれた事、滝に到達出来た事に祝福。近くにある白山天望の湯の温泉で夕日に赤く染まった白山を見ながら体を癒やす。長い三日間は成功にて幕を閉じた。

4:00 市ノ瀬 出発
5:30 林道と釈迦岳登山道の分岐
7:00 カッコいい堰堤(湯の谷を通過)
8:10 千才谷の堰堤前(千仞滝を遠望)
9:00 休憩後、堰堤越えゴーロ歩き開始
10:00 滝前 到着

他写真
訪問日 2014/08/12

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